

翠嵐・湘南・横浜サイエンスフロンティア高校など、神奈川県下の難関校は、5教科の学力検査に加えて、第6の入試科目といわれる「特色検査」を実施しています。神奈川県特色検査は、2017年度で5年目を迎え、今までに無い出題傾向の変化もありました。2018年以降の特色検査突破、志望校合格のために、以下につづく各高校の傾向と対策をぜひ最大限にご活用ください。特色検査実施校に数百名の合格者を輩出している湘南ゼミナールが自信を持ってお薦めします。
■ 2017年度の実際の特色検査を高校別に分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
神奈川県特色検査 「5年目」の変貌
自己表現検査「ペーパーテスト型」実施校
横浜翠嵐・希望ケ丘・横浜緑ケ丘・柏陽・横須賀・湘南・平塚江南・厚木・小田原・横浜サイエンスフロンティア
5年目をむかえ、学力検査の変化と同時に、「曲がり角」にさしかかっているかもしれません
2017年度の神奈川県特色検査は、多くの高校で出題傾向に目に見える変化がありました。そこで、今年度の高校ごとの特徴と変化を、次の3つの観点ごとに整理してまとめます。
1 全体的傾向 どのような学力を求めるか
2 教科の傾向 どの教科を重視しているか
3 形式の特徴 選択が中心・説明記述重視など
高校ごとの特徴と変化(□以降が変化です)
- ●横浜翠嵐
- 1全体 論理および数学重視・知識と論理がバランス
- □変化なし
- 2教科 5教科+論理+技能教科が数問加わる
- □英語が激減
- 3形式 選択・語句記述・計算のみ(説明・論述なし)
- □設問数1.4倍・選択問題増
- ●希望ケ丘
- 1全体 論理・数学・データ読み取り重視
- □変化なし
- 2教科 論理・数学・国語・英語なし・知識の比重小
- □数学の比重がやや拡大
- 3形式 説明記述問題の使用は限定的・選択と計算が中心
- □設問数ほぼ倍増
- ●横浜緑ケ丘
- 1全体 作文とプレゼンテーション・知識不要
- □変化なし
- 2教科 論理・国語
- □変化なし
- 3形式 ほぼ全て「論述(意見を述べる)」
- □変化なし
- ●柏陽
- 1全体 5教科バランス型の教科横断(学力検査の発展型)
- □変化なし
- 2教科 数学・理科・論理重視
- □文系の比重がやや拡大
- 3形式 選択問題多数・文字数は県下最大級
- □選択問題の比重が激増
- ●横須賀
- 1全体 パズル重視・教科の知識の必要性は限定的
- □パズル重視の傾向が強化
- 2教科 論理・数学・国語・英語なし・知識の比重小
- □数学の比重がやや拡大
- 3形式 選択と計算の比重大・ページ数最大
- □変化なし(ページ数は増)
- ●湘南
- 1全体 論理および数学重視・知識と論理がバランス
- □変化なし
- 2教科 5教科+論理+技能教科が数問加わる
- □英語が激減
- 3形式 選択・語句記述・計算のみ(説明・論述なし)
- □設問数1.4倍・選択問題増
- ●平塚江南
- 1全体 多様性重視・コンパクトな設問でバラエティ豊か
- □変化なし
- 2教科 5教科+論理・多様な出題が一貫している
- □変化なし
- 3形式 選択が過半数だが、説明記述もある
- □論述が無くなる
- ●厚木
- 1全体 学力検査の拡大発展型
- □変化なし
- 2教科 国語読解を除く各教科・教科横断色は薄い
- □変化なし
- 3形式 1問以外全て選択問題
- □設問数1.7倍・選択は3倍
- ●小田原
- 1全体 バランスの取れた学力検査の発展型+教科横断型
- □変化なし
- 2教科 各教科がバランス・古文読解を出題
- □変化なし
- 3形式 各種形式がバランス(選択から論述まで)
- □変化なし
- ●横浜サイエンスフロンティア
- 1全体 資料読解+問題解決型プレゼンテーション
- □変化なし
- 2教科 各教科の要素が統合された総合的問題
- □変化なし
- 3形式 語句記述・説明記述もあるが主力は論述
- □変化なし
2017年度公立高校入試の学力検査は、マークシートが導入されるという形式上の大きな変化がありました。受験者数が少ない特色検査にマークシートは用いられませんが、選択問題を増やした学校が目立ちます。また、設問数を大幅に増やしたり、英語を縮小したりするなどの大きな変化があります。ほぼ昨年どおりの高校は横浜緑ケ丘、小田原、横浜サイエンスフロンティアの3校のみ。現行制度5年目で、ある種の転換期かもしれません。なお、教科や形式が変わっても、「1 全体的傾向」は大きく変わらないこと、つまり、特色検査の根本の設計思想は一貫していることにも注目すべきです。
特色検査を理解するための6つの質問と解答
設問を論理型(知識不要)と学力検査型(教科の知識が重要)に分類します
上の説明を補足するために、特色検査の設問を、その内容で分類します。
- 1 論理型
- 純粋に思考力を問う設問:ある種の「パズル」の場合もある
学力検査には珍しいタイプ。知識をほとんど要求せず、論理的思考のみで解決する。公立中高一貫校の「適性検査」の延長線上にあるとも言えます。 - 2 知識+論理型
- 学習した知識+論理的思考力を用いる設問
中学までに得た知識を分野に関係なく自在に使いこなすことが求められます。高校入試、大学入試の小論文・総合問題などに似たものがあります。神奈川県特色検査ならではのタイプです。 - 3 学力検査型
- 主に学習した教科の知識を用いる設問
5教科の学力検査の問題とよく似たものです。単独の教科の設問とほぼ同じ場合と、複数教科の内容を組み合わせた「教科横断型」の場合があります。
すべてにわたる速さと正確さが必要です《全方位的能力》
- 1 柔軟な理解力
- 教科・分野が特定できないので、まず「何が問われているのか」を正確に理解することが必要です。高度な言語能力が必要です。
- 2 幅の広い思考力
- 問題解決のために、これまでに学習したすべての事柄から、使える知識や方法を探し出し、問題にあてはめます。単なる教科横断ではなく、総合的な思考・知識を活かします。
- 3 速く正確な処理・表現力
- 神奈川県特色検査では、多くの高校で時間不足が起こります。じっくり考えればできるものを焦って……。「速く・正確に」計算や判断し、表現できることが高得点に結びつきます。
大いにあります。難関が目標なら、まずは挑戦すべきです
これまでに述べたような能力は、学力検査の共通問題だけを目標に学習しても、なかなか身につけられないものです。高校卒業後の進学や社会に出てからの知的能力による活躍を考えるならば、横浜翠嵐・緑ヶ丘・湘南などの特色検査実施校に挑戦することは大いに意味のある選択です。2017年度の中学3年生が体験する、2020年からの新・大学入試の問題は、特色検査に似た性格のものになる予定です。
また、それぞれの高校の特色検査問題から、その学校が求める学力や生徒像が読み取れます。学校選びにあたって、進路状況、難易度や部活動など以上に、高校の特色を理解することに役立つかもしれません。
まずは模試に挑戦し、特色検査を体感しましょう
学校ごとの課題や目標は、この後の分析で説明します。ともあれ、何が出るか分からない検査に対し、慣れることが大切です。湘南ゼミナールは特色検査初年度から、様々なメニューで受験者を鍛えてきました。2017年度も、さらに強化します。スタートは春の「3月神奈川県特色検査模試」(中2・中3対象)。ここで特色検査がどんなものか、体感してください。課題や目標がより明確になります。
大きく異なります:次の三つのタイプに分類できます・もう一度整理します
- 1 思考力重視型 思考力を強く要求……「論理型」と「知識+論理型」の設問が多い
- □横浜翠嵐
- 推理・説明を重視した県下最高レベルの難問。ほとんどの設問が既存のパターンに似ていないため、斜め読みでは設問の意味が理解できない。「何が示され。問われているか」を正確に読み取るハイレベルな読解力が特に重要。
- □希望ヶ丘
- 言語的論理パズル、数学的パズル、社会科的素材の情報処理が柱。前二者が特に重要。英語は用いない。今年は内容・方針は変わらないが、設問数が激増。
- □横浜緑ケ丘
- 作文と企画シート作成。教科の知識とは無関係の創意工夫・表現力重視の問題。
- □横浜サイエンスフロンティア
- 現代社会の課題を用いた、小論文に近い課題解決型問題が中心。
- 2 バランス型 学力検査を土台に、独特の思考要素を加える……「知識+論理型」の設問が多いい
- □横須賀
- 作業型の複雑なパズルが大半。英文読解も数理社の内容も、各種パズルのための素材という性格が強い。膨大な作業を「速く・正確に・粘り強く」行う学力を求める。
- □湘南
- 論理重視・数学重視で、パズル的な問題も多い。中学までに身につけた言語能力・数学的能力を試される。技能教科(今年は家庭)の内容が出題されることがある。今年、設問数が激増した。
- □平塚江南
- 5教科のバランスをとった学力検査型が多い。その中に論理重視の設問が混在。
- □小田原
- 各教科(唯一古文を大規模に使用+技能教科も使用)のバランス型・形式も選択から論述まで多様。
- 3 学力検査型 学力検査の延長という性格が強い……「知識型」の設問が多い
- □柏陽
- 数学・理科・社会を組み合わせた教科横断+英語読解。
- □厚木
- 英語・理数の学力検査の発展的問題を組み合わせたような構成。難解ではないが、手間のかかる問題が多く、今年は設問数が激増したため難易度が上昇した。
可能性はあります。高校も試行錯誤しながら進んでいます。
神奈川県特色検査は、パターン化された難問ではなく、中学までの学習の中から、高校ごとに自由に出題される問題なのです。まだまだ試行錯誤中ですし、一定化させないのが方針という考え方もできますから、今年変わったということは、2018年度も変化する可能性は大いにあるということです。
特色検査は、実施する側にとって、作成も採点も困難です。それでもわざわざ実施し、個性を打ち出そうとするのですから、実施各校の姿勢は高く評価できます。特色検査のみならず、入試問題は本来、学校からのメッセージです。傾向の変化も含め、問いを通じて「学校との深いコミュニケーションを楽しむ」くらいの姿勢で臨みましょう。
特色検査 高校ごとの特徴・データ比較
データ集計結果-形式・教科の観点から個性を比較する・文字数と設問数を昨年度と比較する
設問形式による比較
選択・記述(計算)・説明(作図・英作文)・論述に分類し、その比率を比較する
左側の薄いほうがシンプルで、右の濃い側ほど書く手間がかかると思ってください。横浜翠嵐高校の説明重視、厚木高校の選択重視がよくわかります。また、論述(意見を書く)のある高校は、横浜緑ケ丘(事実上ほぼ論述)、小田原、横浜サイエンスフロンティアの3校です。
教科のバランスによる比較
5教科および論理*に分類し、その比率で比較する *特定の教科内容とは別の論理を用いるもの
文系は薄い色、理系は濃い色です。どちらを重視するかのバランス、および、特定の教科ではない「論理」問題を多く用いる高校がどこかも分かります(横浜緑ケ丘高校はある種の「小論文型」なので特別です)。
文字数および設問数による比較
総文字数*・英単語数*・設問数・選択問題数を昨年と比較 *文字数と英単語数は、概算です。色の濃い部分が上位です。
神奈川県特色検査 問題別分析の見方
全設問を「何を読み」「どう考え」「どう表現するか」で分析します。
各高校の特色検査の問題の性格を、より具体的に、分かりやすく説明するために、「問題構造図」を用意しました。
すべての設問を分析し、難易度と性格を図にしたものです。
Point 1 設問ごとに「形式」「内容(教科)」「種別」を表示します
まず、設問の形式を「選択」「記述」「計算」「説明」「論述」に分類します。
次に、使われる教科の学力を示します。教科と結びつけにくい思考タイプのものは「論理」とします。
Point 2 「読解プロセス」「思考プロセス」「解答プロセス」に分けます
問題を解くための過程は、次の3段階です。
「読解」⇒「思考」⇒「解答」
この3段階のそれぞれで、どれくらいの手間をかけるのか、また、特に難しいポイントがあるかどうかを、下図のように「色つきマスと略号」で表します。「思考プロセス」は、左から右に、標準的な手順で行われる思考パターンを、1つの作業ごとに1つのマスで表します。
Point 3 表を見れば、設問の難易度と性格がわかります
上のような分析を図式化しました。表の例を下に示します。各高校の特色検査について、難易度のイメージをつかみたい場合、次のように見てください。
1)色つき枠のマスが多いほど難しい、または手間がかかる
2)表の右すみに、マスの数を数えた、簡単な難度を数値で記載しました。
まずおおまかにイメージをつかみ、その後で詳しく見てください。他の高校とも比較できます。
問題分析表の見方
2017年度の横浜翠嵐高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比= 2 : 6 : 2 : 2 / 時間 60分 / 配点 200点 / 観点:理解分析力・思考判断力・表現構成力・想像力
2017度募集定員:358名 / 2017年度志願者数:719名 / 2017年度志願競争率:2.01倍
2017年も「県下最高レベル」―精密な読解・説明力を最重要視する「頭脳の総力戦」
-
問題の概要
全体は2部構成―難解な文章読解・難解な設問読解から説明記述問題が生まれる
- 特徴と変化
- 1全体的傾向 全方面の学力・極めて難関な問題も出題される
- □変化なし
- 2教科の傾向 特定の教科の問題ではないが、全方位的
- □英語が激減
- 3形式の特徴 説明記述を重視・選択問題の使用は限定的
- □選択が少々増加
横浜翠嵐高校の特色検査の特徴は、難解な設問と、「推理と説明」重視。分量的には特別多くありませんが、「なぜそうなるのか?」という思考を常に要求し、それを説明することが求められます。設問の精密な読解が特に重要です。斜め読みレベルでは何を言っているのか分からない設問もあります。時間的にも内容的にも厳しい、「頭脳の総力戦」です。
- 課題1
- 江戸時代の「ニセガネ」作りから、ホンモノとニセガネをめぐる経済学の文章を読みます。「貨幣」の本質的性格にある「逆説(トリック)」に触れる文章です。ここから、計算・資料読み取りや論理判断・推理・部分英作文などの問いがならびます。
- 課題2
- 「スキーマ(体験や知識から作られたものの見方)の功罪」が文章のテーマです。こちらは、速さに関する説明、温度と密度のグラフ読み取り、適語補充、英文の内容(不)一致、図形問題が並びます。
課題の文章が難解で膨大な上、各設問はほとんど前後のつながりが無く、順序も分野も不規則です。読解・思考・解答の全過程で頭脳をフル活用しなくてはなりません。
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設問一覧 難易度平均[8.0](昨年度は7.8) ※表の詳しい見方は概要にあります
読解・思考・解答すべての面で高レベル~単純な選択問題は事実上なし
説明記述型問題が12問中5問。「なぜそうなるのか?」という推理をして解答する設問が多数あります。また、12問の中に、複数の解答が含まれるものが4問ある上、選択問題でも「すべて選ぶ」など、かんたんに解決できないようになっているものがあります。翠嵐高校の特色検査は、形式上の複雑さも神奈川県下最高レベルです。 -
設問の特徴
精密で深い「読解」+推理と説明 ―「何となく」を許さない厳しい設問群
総文字数はおよそ11,000、英単語がおよそ200。最多ではありませんが、情報量が多く手間がかかります。2つの文章の内容は、どちらもかなり難しい内容です。
課題1は貨幣経済のシステムそのものが中学生には理解困難という、具体的レベルでの難解さ。課題2は「スキーマ」の概念そのものが理解の妨げになるという抽象的レベルでの難解さです。どちらも、大人でも一読してすんなり理解できないレベルです。2つの文章は「人間の認識能力が作り上げたある種のまぼろし」という深い部分での共通テーマをもっており、難解ですが、試験後にもじっくり再読してほしい意義深い素材です。この文章が、読解力を試す第一の関門です。
読解力を試す第二の関門は、設問の難解さです。半数以上の設問は、大まかに読んだだけでは何をすればよいのか理解できません。資料と突き合わせながら精密に読み込むことを求めています。設問そのものの難解さが、横浜翠嵐高校の特色検査の最大の特徴と言えます。既存の「入試問題」のパターンにあてはめにくい設問の構造が、斜め読みを拒否し、難易度を上昇させます。「精密読解」をここまで要求する問題群は極めて稀です。
もう一つ、思考判断の過程や解答の手続きにも、他に見られない複雑さがあります。最初に登場する選択問題(課題1・設問2)を例に説明します。
複数の資料(江戸時代の銀貨の発行状況・飢饉・米価の推移など)を読み、その内容に適合する選択肢を選びます。一般的な選択問題は、複数の選択肢を「一つの基準」で評価・判断します。たとえば、数値の大小や、歴史的な前後関係などです。この設問では、ある選択肢は資料の文章で判定し、ある選択肢は経済の理論で正否を決め、別の選択肢は計算する……となります。次々に頭脳の別の部分を働かせ、作業しなくてはなりません。その上、図表から読み取れるものを《すべて選ぶ》という指定です。選択でも、一般的な記述よりよほど負荷がかかります。
最後に、今の例にもあるように「複数の解答」を求めるのも特徴です。複数の理由、複数の説明など、解答の段階でも関門が設けられています。
以上が、横浜翠嵐高校の特色検査を「最高レベル・頭脳の総力戦」と評した理由です。 -
昨年との比較
英語が大幅縮小―本質的な難しさに大きな変化はない
英語が激減しました。昨年度まで、およそ1ページ程度の長文読解がありました。同時に難しい単語に語注を付けるかわりに「単語集」が用意され、手間を一層複雑にしていました。ただし、昨年の難易度は特別ではなかったので、英語が縮小したことで楽になったとは言えません。文章が抽象的で難しいものになったので、人によっては2017年度のほうが難しいと感じるでしょう(残念なのは、すでに書いたように、設問が複雑なため、深みのある文章をじっくり味わい考えながら読むと、解き終えられなくなってしまうことです。解答に必要な箇所にある程度絞り込んで読む「見極め」も必要です)。
以上のような変化にもかかわらず、読解(情報処理)・推理・説明、という問題の設計思想(学力観)は変わっていません。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
課題1 設問3 ことわざにおける「逆説」を理解し、その意味を指定形式で説明する
文章中に「ホンモノの貨幣の単なる代用品だったものがホンモノに代わってそれ自身がホンモノになってしまう逆説」について、この逆説についての説明が次のように段階的に示されます。
- 条件
- 預かり手形はホンモノのおカネと似ても似つかないにも関わらず、いやそれだからこそ、
- 結論
- 本来のホンモノのおカネに代わってそれ自身がホンモノのおカネになることができる。
- 理由
- というのも、ホンモノのおカネと似せようとすると、どうしてもニセモノのおカネになってしまうが、似ていなければホンモノの「代わり」として流通しはじめ、いずれホンモノの地位を奪う可能性があるからである。
上のような「逆説」の意味をもつことわざを5つの中から選び、番号で答え、その意味を上の形式にならって説明します。なお、選択肢の逆説の意味のことわざは複数あります。
問題分析:論理の読解+抽象化と具体化の複雑なプロセス-何よりも正確に
設問そのものはコンパクトです。しかし、次のような複雑な要求が盛り込まれています。
・文章中の「ニセガネがホンモノに変わる」メカニズムとその皮肉な性質を正確に理解すること
・文章および設問に示された「逆説」の意味を正確につかむこと
・以上の理解に基づいてことわざを正確に理解し、選ぶこと
・ことわざの意味を説明できる状態まで正確に理解すること
・ことわざの意味を指定の形式に合わせ、かつ「逆説」のニュアンスを盛り込んで正確に書くこと
次に、思考の流れを説明します。
文章では、「ニセガネ・ホンモノ」のような抽象的な語句と「丁銀・金貨」のような具体的なものについて重ねて記されています。意味の流れをつかみ、一度「逆説」の意味を抽象化して把握します。それを「ことわざ」にあわせてもう一度具体化し、適切なことわざを選びます。そうやって理解した「逆説」の流れを説明するわけです。設問を大まかに読んだだけでは理解できない難問の典型です。
分析に何度も書いたように「正確」であることが何よりも重要です。
小さな場所に、幾重にも重なった複雑な思考過程が詰め込まれているのが、横浜翠嵐高校の難問の特徴です。これも「総力戦」の一例です。また、ことわざや慣用表現などを用いて、言語表現について説明させる問題も、翠嵐高校ではしばしば出題されます。「横浜翠嵐高校特色検査模試」の出題(文章省略)
※文章で、語句や文の「想像可能性(具体的にイメージすることができるかどうか)」と「記号操作可能性(文法的に誤りなく記述することができるかどうか)」が、次の表のような4つの例を用いて説明される。「非常に長い坊主文」とは文章中に示される「坊主(ぼうず)が屏風(びょうぶ)に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に坊主の絵を描いた:文章で説明」のような文のことを指す。
文章中の表では「丸い四角」と「非常に長い坊主文」、「9999角形」はいずれも想像不可能だが、記号操作可能であると分類されている。しかし、これら3つの語の「想像不可能」は「不可能であることの性質」に応じてさらに2つに分類することができる。その場合、3つをどのような基準でどう分けるのが適切か。解答用紙には、1つだけ他と異なる性質をもつものを書き、それと他の2つがどのように異なるかについて、かんたんに説明しなさい。「横浜翠嵐高校特色検査模試」の出題(文章省略)
英文中の下線部____①I want to die at home on the Tatami. について、この表現と英語における慣用句「hold the key to something(日本語にもほぼ同じ表現と意味の慣用句がある)」の共通点を、次の語のいずれか1つを用いて説明しなさい。
使用する語 直喩・隠喩・対句・擬人法・反復法 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ②
課題2 設問2 水温と密度の関係から、湖の状態を判定し、魚の生存理由を説明する
水の水温と密度との関係を表したグラフと、ある湖の中央部の7月の平均水温と深さとの関係を示したグラフが示されます。これらをもとに、この湖の1月の平均水温と深さとの関係を表すグラフとして適当なものを選びます。
次に、氷の温度と密度の関係をグラフで示し、湖の表面が凍る冬でも湖中の魚が生きていられる理由を説明する問題があります。問題分析:複雑な資料読み取りと解釈・説明
資料(表やグラフ)読み取り問題は、高校入試の全教科で出題ケースが増える一方の分野です。多くの問題はデータを読んで、特徴をつかんで終わりになるものや、2つまたは3つを比較すれば解が得られるレベルのものです。
横浜翠嵐の特色検査での資料読み取りは、記されたデータについて、読む角度を様々に変えるような工夫ができないと正解できません。数値やそのパターンから「意味を読み取り解釈する」ことを求めます。やはり「正確な読解」重視です。「特色演習」の出題
次の資料は、わが国のGDP(国内総生産)の成長率の推移を表している。GDPの成長率とは、前の年のGDPに対し、何パーセントの増減があったのかを計算した結果の数値である。一般にこの数値を「経済成長率」とよぶ。このグラフを見て、次の質問に答えなさい。
① 1956年から1990年までの期間において、わが国のGDPが最大であったのは西暦何年のことと考えられるか。答えなさい。
② このグラフを見てわかる範囲において、経済成長率の最も大きな変化があった年と、その原因になったと想像されるできごとを答えなさい。「パスポートテキスト・特トレ」の出題
次の実験1・2の結果を踏まえて、水とエタノールの混合前と混合後の体積の変化について下のようにまとめた。AとBに適切な言葉を入れなさい。また、Cには、水とエタノールについて気づいたことを30字以内でまとめなさい。
実験1
水とエタノールをいろいろな体積の比率で混合する実験を行った。二つの液体の混合前のそれぞれの体積の和が4㎤になるようにしてから混合すると混合後の体積は右の図1のグラフに表される結果になった。例えば水36㎤とエタノール8㎤を混ぜると体積は43.4㎤になった。
実験2
右の図2のような円筒形のガラス容器に同じガラスでできた大小の玉を上部の面からはみ出さないように入れて、どのような条件のときに最も詰まるかを確かめる実験を行った。大きい玉だけで詰める( または、小さい玉だけで詰める) よりも、大きい玉と小さい玉をほぼ半分ずつ混ぜて上部まで詰めたときに最も重くなった。
実験2より、小さい玉が大きい玉の【 A 】に入ったために、玉が最も多く詰められる。大きい玉と小さい玉の重さの合計を一定にしておけば、体積は【 B 】なると考えられる。図1 より水とエタノールの場合も同じようにほぼ半分ずつのときに体積が最も小さくなっていることから、【 C 】。 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ③
課題2 設問3 異なる速度で往復する時、速度の平均値が正しい平均速度にならない理由
2つの地点を往復するのに、行きの平均時速60km、帰りの平均時速40kmのとき全行程の平均時速が50kmと考えがちであると指摘されます。これは「誤ったスキーマによるもの」と続きます。では、この平均時速が50kmとならない理由を説明します。追記として正しい平均時速を答えても理由の説明にはならないとあります。
問題分析:理科・数学における具体化・抽象化を実践
速度に関連する難問は、難関合格には避けられない分野です。しかし、この問題のように、解を求めることを目的とせず、原理が理解できているかどうかを「説明」させて判定しようというタイプは比較的珍しく、近年増加中の新傾向です。「言語化された数学」と言えましょう。
たとえば、2014年度の川崎市立川崎高校附属中は、よくある速度の難問の代わりに「時速とは何か」を説明させる空欄補充が出題されました。また、2016年度の「全国学力調査」には、電気自動車とガソリン車について、何年使い続けると費用の逆転が起こるのかを、「解を求める方法」だけを説明させる問題がありました。いずれも同じ学力観を土台にしています。「神奈川県特色検査模試」の出題
ろうそくは燃えると、二酸化炭素を出す。二酸化炭素は、現在の研究で火星の大気の主成分であることが分かっている。火星の大気は、体積の割合で95%が二酸化炭素、3%が窒素で、残り2%がアルゴンや酸素などの気体で構成されている。一方、地球の大気は、約78%が窒素、約21%が酸素であり、二酸化炭素はわずかしか含まれていない。
いま、探査機を打ち上げて火星の大気を100L採取してきたと仮定する。この気体の95%が二酸化炭素であることを実験で確認したい。手元には水10Lとガラス瓶(びん)、窒素の割合が検知できる気体検知管が2本ある。地球の大気は窒素が80%、酸素が20%であるとして、どのような実験をして、結果がどうなればよいか、具体的な数値を用いて説明しなさい。
なお、水1Lに二酸化炭素は1.4L溶けるものとし、ほかの気体は水には溶けないものとする。また、ガラス瓶には水10Lと火星の大気10Lを入れるものとし、ふたを閉めると完全密封でき、つぶれたり変形したりしないものとする。最初にガラス瓶に気体を入れるときに地球の大気は混入しないものとする。 -
課題と対策
①読解の正確さの追求 ②作業を正確に進める ③説明する=疑問を持つ
① 読解の正確さを鍛えるための基本は、「手も使いながら読む」ことです。複雑な文章・情報を読む際、目印をつけたり、関係のある箇所の間に線を引いたり、情報を一度図式化して、視覚的に分かりやすくすることが重要です。このような練習を重ねると、正確さに速さが加わるようになります。
今回取り上げた「問題・分析・湘ゼミの対策例 ①」に実例があります。文章の論理構造を「条件・結論・理由」と抽象化して整理している部分です。同じ項の「横浜翠嵐高校模試」にある「表」も、文章の内容を抽象化・視覚化した例です。「難しい」と思ったら、その難所を整理する練習のチャンスと考えて下さい。図式化・視覚化の技術は、高校や大学の入試で強力な武器なのはもちろん、一生使い続けることのできる知的資産です。横浜翠嵐高校を志願するなら、どれだけ練習しても惜しくありません。
② 計算・作業の対策です。パズル的な作業や複雑な計算は、手間さえかければ正解できるのですから、外してはいけません。「ミスを無くす」ことです。ミスをしやすい人は、どこでミスするのかを明らかにしなくてはいけません。「ミスしない方法」をただ教わるのではなく「なぜ、どこで、自分はミスをするのか」自ら考えることです。「記憶や暗算に頼る部分でのミス」「書き写すときのミス」「多数の要素や大きな数のあつかいでのミス」などが多くの人にあてはまります。ここでも「書く」練習です。複雑な計算や証明の問題、経過を説明する問題やパズルなどを始めから終わりまでミスなく終えられるように練習します。制限時間を設けて速度にもこだわってください。
③ 最後に「説明」の対策です。「なぜそうなっているのか?」という問いかけは、科学の第一歩です。前期選抜の時代から横浜翠嵐高校は一貫して「疑問と推理と説明」をテーマに出題しています。日常生活で「なぜ、こうなっているの?」という疑問をもつことです。たとえば「なぜ自転車は倒れないで進む?」「なぜ日本のまげや西洋のかつらがなくなった?」―横浜翠嵐高校の出題もこのような疑問から出発しています。
幸いにも、疑問解決のための「調べる方法」はたくさんあります。ただし、調べて「何となく分かった」で終わらせないことです。解答は一つとは限りません。複数の理由を求める問題もあります。よく調べ、「他にはないか?」と考えます。そして、誰かに説明することです。説明できるようになれば、さらに理解が深まります。できれば構造的に、手短に、分かりやすく……。ぜひ、友人や家族と、身近に見つけた問題について疑問点を交換し、その解を出したら「他にない?」と迫るようなやりとりを行ってください。
疑問・推理・調査・解決というプロセスを数多く体験すれば、難問も興味深く見えるようになります。手始めに「横浜翠嵐高校はなぜこのような出題をした?」という理由を2つでも3つでも考えてみてください。
道を10メートルも歩けば、疑問は数え切れないほど生まれます。生きものの名前について、機械のしくみがどうなっているか、音や光の不思議……疑問・推理・調査・解決を繰り返すだけで、生活は何倍も楽しく充実したものになるのです。神奈川県特色検査模試の受験者の多くが、次のような感想を書きました。「難しかったけれど、考えに考えて、発見があることがとても楽しかった」―この感覚をもつようになることが最善の対策です。
最後に、アメリカの高名な物理学者のことばを紹介します。
―ほんとうに優れた人物は、優れた解決をする人物ではなく、優れた質問をする人物であることが多い。
2017年度の湘南高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比= 3 : 5 : 2 : 1 / 時間 60分 / 配点 100点 / 観点:論理的思考力・洞察力・情報活用能力・表現力
2017年度募集定員:358名 / 2017年度志願者数:491名 / 2017年度志願競争率:1.37倍
テーマは「生きた知識」― 論理 ・データ・図形を重視するバラエティ豊かな難問群
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問題の概要
コンパクトな設問が多数―技能教科まで含めた幅の広さが特徴
- 特徴と変化
- 1全体的傾向 論理およびデータと数学を重視
- □変化なし
- 2教科の傾向 5教科+論理+技能教科が数問加わる
- □変化なし
- 3形式の特徴 選択・語句記述・計算中心で説明と論述はほぼ無し
- □設問数1.4倍・選択増
湘南高校の2017年度特色検査の問1は、「日本語の表現の問題点」をめぐる言語論理的な問いです。湘南高校が毎年ここに配置する、言語とその意味、表現、論理をテーマにした問題群です。
問2は小型のさまざまな設問群。(ア)は家庭科も含む衣料に関する問題。(イ)は英語による「場所あてパズル」。(ウ)は正四面体を転がす立体パズル。(エ)はストロボスコープと回転する円盤を用いた計算と図形のパズル。
問3は選挙制度をめぐる投票・得票と議席数配分の問題などをとりあげた計算です。
設問の柱になっているものは、知識をあまり用いないパズル的な設問です。「論理・データ・図形」と言ってよいでしょう。 -
設問一覧 難易度平均[6.3](昨年度は6.8) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
はじめに文系、後半に理系。多様な素材で論理重視の問いが多数並ぶ
設問数も文字数も神奈川県内最多レベルで、内容も多様なので、試験時間に敏感になる必要があります。かなり手間のかかる問題はありますが、手が出せないような難問はありませんので、速さと正確さの両立が重要です。ブロック単位で設問の規模と複雑さを大まかに読みとって、解く際の「優先順位」を決定するとよいでしょう。
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設問の特徴
読解力が最重要・よく考えて複雑な作業を正確にこなすのがポイント
読み取る情報は豊富ですが、解答形式は選択が半数で、残りもシンプルな記述が多く、「読解(入力)・思考・解答(出力)」で分けると、読解と思考にかなり重きをおいています。なお、英語の比重は小さく、パズルが2問のみですし。難しい表現も用いられていません。
幅広い題材ですが、重要テーマの一つが「活用」です。学習したことがらを組み合わせて解決します。
たとえば問1。国語で学んだ文法事項を単なる用語の知識としてではなく、論理をふまえて具体的な事例の中で考えます。問2(イ)の英語のパズルや問3の選挙の計算問題も同様で、英語や数学の知識を、課題のための手段として活用します。
湘南高校の特色検査は、「生きた知識」を体験させる「学力検査の幅を広げた教科横断・発展型」問題群です。 -
昨年との比較
設問数1.4倍になってやや難化:個々の設問は多少小型化したが、時間的な負荷が増大
設問数は1.4倍に(2016年17問→2017年24問)。これは、「論理・データ・図形・計算」の各分野で少しずつ設問を増やした結果です。この背景には「選択問題の比重拡大(2016年35%→2017年50%)」と「説明記述の減少(2016年24%→2017年8%)」があり、解答時の負担軽減を設問数で補った結果と見ることもできます。
したがって、設問単位の難易度はやや下がり、全体的には時間的負荷も考え合わせると、やや難易度が上がったと言えます(同様の傾向は希望ケ丘・厚木高校の特色検査にも認められます)。
出題方針の論理重視・活用重視・教科の多様性は例年どおりです。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
問1 日本語の論理構造を文法知識と併せて考え、解決する
「日本語表現」に関する対話文を読んで解く問題群です。
(ア)文法判断をもとにした適語補充。 (イ)「~もらってやってくれないか」の正しい用法。
(ウ)「させて」の誤用とその修正。
(エ)「重ね言葉」を2つ探す(この誤用を先生の発言から探すという設定がユーモラス)。
(オ)(カ)「食べられた」の用法に関する正誤判断。問題分析:「生きた国語知識」を考えるための「文法と論理」の問題
湘南高校の特色検査は、毎年、「言語の知識を論理的にきちんと考える」というテーマの問いで始まります。2017年は、上記のように、日常会話を文法・論理の双方から確認します。また「ら抜き」表現などについてもとりあげられ、それが誤用なのか意味のある変化なのか、対立する価値判断も示すなど、善悪よりも論理的で多様な視点を重視する姿勢も示します。この多様性も湘南高校の特色検査の特徴です。
文法知識を単なる暗記の対象として扱うのではなく、現実の言語活動にあてはめてよく考える体験を受験者に促しています。「生きた知識」をテーマにした、湘南高校らしい出題です。「神奈川県特色検査模試」の出題(要約)
「坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に坊主の絵を描いた」という複雑な構造の文を読み、これを次のように分解します。
「坊主が屏風に描いた 坊主が屏風に描いた 坊主が屏風に描いた 坊主が屏風に坊主の絵を描いた」
すると、4人の「坊主」に関する文が現れます。このとき、最初の部分を( )で囲み、記号によって文を構造化して表現すると、次のようになります。
「(坊主が屏風に描いた) 坊主が屏風に描いた 坊主が屏風に描いた 坊主が屏風に坊主の絵を描いた」
では、筆者が4人の「坊主」すべてにわたって行った「構造化」は最終的にどのような姿になるか想像して、次の文を補って完成させなさい。なお、( )以外の記号は用いられていない。
(坊主が屏風に描いた)坊主が屏風に描いた坊主が屏風に描いた坊主が屏風に坊主の絵を描いた -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ②
問2(イ) 英語で書かれたパズル ― 人物と部屋の組み合わせを判断
次のような英文を読んで、「エマの部屋のある階」、「フィオーラの部屋番号」を答えます。
エイミー、ベティ、カーラ、デイジー、エマ、フィオーラとジーナの7人がこの家に住んでいる。各人が1部屋を所有しており、1部屋は誰にも使われていない。
1. ベティは2階に住んでいて、同階には2人しかいない
2. エイミーの部屋はフィオーラの隣で、フィオーラの隣には他に人は住んでいない
3. カーラとジーナは隣同士で彼らの階には2人しか住んでいない
4. デイジーの階には3人が住んでいる
5. デイジーの部屋は階段の隣である
問題分析:英語を課題解決の手段に用いる活用型問題の典型
上のように、英語そのものは平易ですし、実際には英文の大半は右上のような図が代用してくれるので、「英語」の難しさはほとんどありません。ここでの英語は、文法知識や文脈読解の素材というよりは、パズルを複雑にする「手段」となっています。
神奈川県の公立高校入試にも近年確実に出題されています。2017年は「駐車場の価格計算」でした。ここにも、知識そのものより、その活用や論理判断を重視する湘南高校特色検査の考え方が認められます。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
次の英文を読んで、文章中の( ① )にあてはまる適切な語句を小文字で書きなさい(語注省略)。
I will tell you about “*Caesar Code”. In the Caesar Code, each *letter is changed into another letter. For example, A is changed into C, B is D, and Z is B. Each letter is changed into two letters after *alphabetically. This is called “The *Shift of 2” You can see another move. If you choose “The shift of 5”, each letter is changed into 5 letters after. So A is changed into F.
I made a message by using Caesar Code. This is written by shift of 3. Each letter should be changed into 3 letters before. You have to change my message by changing 3 letters before.
My message is this. “kdssb eluwkgdb” Can you see my original message? It is “( ① )”. -
代表的な問題と湘ゼミの対策例③
問2(ウ) ●○をつけた立体を回転させるパズル
6つの丸印をつけた正四面体があります。各面の印には「○」と「●」があり、各面は「●」が1個、2個、3個、4個となっています。この立体を、32個の正三角形をしきつめた平面上で転がしたときのできごとについて問います。
問題分析:湘南志望者にとって必須の「立体パズル」
問題の中身そのものは「正四面体を転がす」というシンプルな作業です。しかし、情報量が多く、転がしたあとの状態を想像する複雑さのために、「なんとなく」では解答にたどりつけません。
作業の途中で1つ1つの過程をていねいに書き出して、「今どこまで進んで何をしているのか」を明らかにしながら進めないと、最後まで終わらないか誤答となってしまいます。立体の動きに関する把握力と作業の正確さが求められます。特色検査全体で見ると、時間的余裕が無いので「速さ」も重要です。
このような図形パズルは、湘南高校を志願する場合、避けて通れません。多くのパターンを体験して慣れておく必要があります。「神奈川県特色検査模試」の出題
右の図1において、1の目の部分を「上面」、3の目の部分を「正面」、5の部分を「右側面」と表現することとする。図1のさいころを右に転がすと、図2のようになる。さいころは、表の目と裏の目を足すと7になる。いま、さいころを転がすことを考える。図2の状態から、はじめに右に2回転がし、その地点をAとする。次に、Aから奥に3回転がし、この地点をBとする。最後に、Bから右に1回転がし、その地点をCとする。このとき、A、B、Cのそれぞれの地点でのさいころの目を、「上面」「正面」「右側面」の3つの面だけ、それぞれ算用数字で記入しなさい。
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問題・分析・湘ゼミの対策例 ④
問3 選挙制度の実情と問題点を題材にした、計算中心の数社横断問題
選挙における「矛盾」がテーマの文章を読みます。多数決といいながら、選挙制度のしくみに含まれる問題点によって、「多数派すら大切にされていない」状況が指摘されます。このことを確認するために、実際の投票結果や、そこに起こるパラドックス(二律背反・矛盾)を検討し、計算を行います。
前半は論理中心、後半は計算中心です。
(ア)社会(公民)の知識と国語(論理判断)の組合せ
(イ)(ウ)条件を組み合わせる論理パズル
(エ)ニューマイヤー方式の選挙の結果に関する論理判断と計算問題分析:「生きた知識」を具体的に示す数社横断型の問い
選挙制度については公民で学びます。「小選挙区制は死票が多い」などのことも知識として身につけます。しかし、それがどのような事態を指すのか、論理・数値の双方から具体的に検証することは稀です。
社会の学習には、数学的要素はほとんどありませんが、各分野の内容を現実に適用しようとすれば、数学と切り離すことは本来不可能です。
湘南高校が重視する「生きた知識」を具体化した典型的な教科横断型問題と言えます。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
有権者の民意を国政に反映させるにはさまざまな方法がある。その中の一つに「間接民主制」がある。間接民主制とは選挙によって代表者を選出し、政治を委任する方法のことである。このための選挙の方法は、歴史上つねに試行錯誤のくりかえしであり、「決定的に優れた方法」は見つかっていない。そのため、わが国の国政選挙では、衆参両議院とも、複数の投票方法を複合的に使用している。
その中でも分かりにくいのが「比例代表制」である。わが国の比例代表制は「ドント式」を採用している。ドント式とは、有権者が政党名を書いて投票する。そして、各政党の得票数を1, 2, 3…の自然数で割っていき、その商(しょう)の大きい順に定員まで数え、議席を決めていく方法である。当選議席数が確定するとあらかじめ用意した「拘束名簿」にある順番に従って、当選者が決定する。実際にはこの名簿の上位にある候補者は、選挙区制で当選することが多いので、さらに話が複雑になる。以下の例では選挙区制による当選者は考えないこととする。□ドント式比例代表制の例
定数7名の比例代表制による選挙で赤・青・白の各党が資料1のとおりの人物を立候補させた(政党名・候補者名は架空)。
開票の結果、資料2のとおりであった。赤・青・白の各党が獲得した得票数はそれぞれ300票、200票、100票であった。この結果、赤党は4議席を獲得した。①赤羽重治・③赤尾春菜・④赤倉雛子・⑦赤橋小夏が当選。青党は2議席であった。②青田莉奈・④青木賢明が当選者となる。白党は1議席獲得。④白川友彦が唯一の当選者となった。(①~⑦の数字は当選した順番を示す)
問 下の表はある選挙で行われた定数10名の比例代表制選挙での、各党の得票数を示したものである。では、この選挙で7番目に当選したのはどの政党の誰か、その人物の「得票数÷xの商」はいくらか、それぞれ答えなさい。ただし、「得票数÷xの商」は小数点以下を切り捨て、整数で答えること。
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課題と対策
速く正確な読み取りと、スムーズな作業が目標・知識の活用も忘れずに
湘南高校の特色検査には長い文章での説明や論述問題はありません。ですから、読み取りと作業の正確さが最優先です。また、情報量も作業量も多いので、速度も軽視できません。
具体的には、設問を読みながら重要箇所にマークし、要求されたことを明らかにしましょう。マークやメモによって、多彩な内容にまどわされず、核心をつかむのです。また、作業途中も「手で書いて解く」ことが大切です。
これまでに説明した湘南高校の設問の「好み」をもう一度整理します。
第一は、論理判断(パズル)です。それも、学んだ知識を現実に合わせて使いこなすことができるような「生きた知識」にすることです。他地域の入試まで含めた多様な「活用型問題」に挑戦することをすすめます。また、日常の学習が「用語を覚えただけ」で終わらないよう、具体的なできごととの関係を常に意識するべきです。
第二は、図形パズルです。こちらは「慣れ」です。高校入試はもちろんですが、似たパズルは、南高校附属中学などの公立中高一貫校の適性検査に多く見られますので、練習対象としてよいでしょう。
2017年度の横浜緑ケ丘高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比= 3 : 5 : 2 : 2 / 時間 50分 / 配点 200点 / 観点:論理的思考力・表現力・創造性
2017年度募集定員:278名 / 2017年度志願者数:448名 / 2017年度志願競争率:1.61倍
作文とプレゼンテーション―知識不要で能動的学力のみを対象とする県下一の個性派
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問題の概要
説明力+他者(年少者)への配慮と想像力を求める
- ■特徴と変化
- 1全体的傾向 作文とプレゼンテーション
- □変化なし
- 2教科の傾向 論理・国語:知識不要
- □変化なし
- 3形式の特徴 ほぼ全てが「論述(意見を述べる)」
- □変化なし
- 問題1
- 「はたらくくるま」という歌詞を読み、郵便車、清掃車、タンクローリーなど9種の自動車を題材にして、社会と「自動車」の関係を考察する作文問題です。
問1 「私たちの社会にとってとても大切な役割を果たしているくるま」と考えられるものを選び、選んだ理由を100字以内で記述します。
問2 「社会の変化から30年後になくなっていると思えるくるま」を選び、そう考えた理由を100字以内で記述します。
いずれも評価の観点は《論理的思考力・表現力》です。 - 問題2
- 子どもたちが仲間と一緒にワクワクして過ごす場所としての「秘密基地」作りのための計画書作成です。秘密基地は仲間と共同で作るので、この計画が説明・提案の素材になります。
評価の観点は《論理的思考力・表現力・創造性》です。
問題1・問題2に共通するのは、《論理的思考力・表現力》です。どちらも同程度または、より低年齢の立場に立って想像する課題です。そして、考えたことを手際よく分かりやすく説明しなくてはいけません。
特色検査での横浜緑ケ丘高校の課題の一貫した特徴は「創意工夫」です。この問題は、「想像から出発した課題発見・解決・提案」という性格が強く表れています。 -
設問一覧
作文と企画シート作成
右の表は本来、他の高校の特色検査と比較するためのデータですが、横浜緑ケ丘高校に限っては、比較は困難です。
小作文のテーマも、企画シートの内容も、これまでのところ、学習した教科の知識をアウトプットする要素はありません。
また、小論文の一種としてみた場合、テーマが人文科学・社会科学・自然科学のいずれに属するものなのか、そして、どのような考察を求めているかによって分類できますが、そういった特徴は見られません。
あとの項目でも記しますが、作文や企画を通じて「他者への想像力を土台にした創意工夫」がどれだけ具体的にできるか、ということが唯一最大の課題です。 -
設問の特徴
能動的学力のみが対象-リアルな想像力と他者(主に年少者)への配慮
特色検査に限らず、テストで求められる学力は2種類あります。
第一が「受動的学力」です。まず、指定されたことがらをしっかり覚えて「知識」として、使うことです。そして、示された素材について作業したり推理したりする「思考」も受動的学力に含まれます。共通点は、指示にしたがって行動することが中心で、意志表示は求められていない点です。
第二が「能動的学力」です。こちらは基本的に意見を述べることです。作文や企画等です。
能動と受動のどちらがよいとかどちらが難しいではありません。5科の学力検査は基本的に受動的、特色検査は受動を中心に、高校によって能動(論述や作文)が加わります。
その点、横浜緑ケ丘高校の特色検査は「受動的学力は学力検査にまかせた」とばかりに、能動的学力のみを測る問題です。大学入試の小論文に近い性格とも言えます。重要なテーマは「創意工夫」と「他者への配慮」です。
創意工夫が求められるということは、ありきたりな解答とオリジナリティの高い創意工夫にあふれた解答で差がつくことを意味します。
なお、模試の受験者や対策講座受講生の様子を見ていて、最も楽しんでいると思われるのが横浜緑ケ丘高校の志望者です。「工夫することの楽しさ」がテーマと言ってもよいでしょう。 -
昨年との比較
題材の外観は毎年変化しても、求める学力と方針には変化なし
基本的な構成は4年間変わっていません。また、本質的な課題も変わっていません。他者への配慮と創意工夫を重視する同校の姿勢は一貫しています。求められているのは次の2点です。
1 ある課題に対して「創意工夫」をこらすこと
2 受け手である他者が理解しやすいよう配慮すること
ものごとを多様な角度からとらえると同時に、自分の考えを客観的に見ることができるかということです。「分かりやすく」「読み手をひきつける」表現の工夫が求められています。
昨年度は「ありえない状況やものを想像する」要素が強く見られました。今年2017年度は問題1において、社会についての見方や考え方が求められています。問題2では「仲間と一緒に楽しむ」という要素が加わっています。
また、この数年、「他者」が低年齢の集団として設定されていることが特徴です。 -
課題と対策①
作文の練習に「多様な視点」を常にとりいれる
作文力が基本です。「選んだ理由」「なぜか」を限られた文字数で分かりやすく印象的に説明することです。
ここで重要なのは「読み手」の存在を常に意識することです。書き手が分かったつもりでも、読み手に通じなければ成り立ちません。また、「子どもが・仲間と・ワクワクする(問題2)」とは、どのような状況か、などについてリアルに想像できる力も必要です。
また、今年の問題1では、現代社会の特徴と将来に関する思考を求めました。継続するかどうかは不明ですが、関心をもって接してほしいところです。同時に「なぜ」という視点を忘れずに考え、「他者」に説明を試みることを強くすすめます。
まず、日常的な観察力です。常に「ここにどんな課題があるか」「どうすれば解決できるか」「もっと分かりやすくするにはどうすればよいか」という疑問符をつけて観察し、考えることです。次に表現力です。形式的な作文というよりも、分かりやすく伝える工夫が重要です。上記の観察の結果生まれたアイデアなどを、誰かに伝えてみることです。言葉や身振り手振りから、文字でも図でも色々使って試みましょう。 -
課題と対策②
日常生活での課題発見・解決・説明・提案が何よりの対策
「創意工夫」の本質をまとめます。意味は「新しいものを創りだしたり、ある物事をよりよいものにしたりするために努力すること」です。「新しいもの」は、すでにあるものを新たに組み合わせることで創られます。奇抜なアイデアや天才的なひらめきを求めるものではありません。
創意工夫とは、2つの要素で成り立ちます。
1 ものごとをもっとよくしたいという意欲
2 ものごとを様々な角度から観察し、改良を試みる行動
1があるから2が生まれます。まとめれば「もっとよくしよう」です。具体的には次の2点が基本です。
A 問題点や課題を見つけ、解決・改善法を工夫する
B より分かりやすく、印象深く伝える
この訓練は、いつでもどこでも楽しみながらできます。
たとえばテレビ番組を見て、街角で行われているイベントを見て、学校行事などの最中にも、「自分ならこうする」と考え、誰かに説明することです。企画の練習は、いつでもどこでもできて、その上楽しみながらスキルアップできるという、一石二鳥にも三鳥にもなる行為です。どんどん経験してください。テレビ番組を見たり、イベントに参加したり、さまざまなものを手にとってみることがさらに楽しくなるという、素敵なおまけもついてきます。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
問題1 大切な「くるま」・なくなる「くるま」の理由説明
問題1は「車社会」についての考察を含む作文です。
「はたらくくるま」という歌が示され、次の9つの「くるま」が列記されます。
郵便車・清掃車・タンクローリー・ブルドーザ・テレビ中継車・幼稚園バス・冷凍車・耕運機・タクシー
問1 中学校の同級生に「私たちの社会にとってとても大切な役割を果たしているくるま」として最も伝えたいと思うくるまを選び、同時にそれを選んだ理由を100字以内で書きます。
問2 「社会の変化から30年後になくなっていると思えるくるま」を選び、同時にそのくるまがなくなっていると考えた理由を100字以内で書きます。問題分析と解説:課題解決型作文―リアルな想像力と適切な説明力がポイント
他の多くの高校と異なり、緑ケ丘の特色検査は、読解と作業が忙しくて時間に追われる要素はありません。そのかわり、よく考えて解答の内容を工夫しなければいけません。
問2について解説します。
解答すべきは「そのくるまが(30年後に)なくなっていると考えた理由」です。社会的な変化を想像し、根拠を明快に示す必要があります。
まず「くるま」を選び、内容(理由)を考えます。ここで必ずメモを作ることが重要です。
想像しやすい例は「タンクローリー」または「テレビ中継車」でしょうか(これはあくまでも例なので、根拠を明示できればどれでもかまいません)。後者とすると、「通信技術の発達で……①中継装置が手で持ち運べるようになった……②中継装置が不要になった」といった理由が想像可能です。
次に、文章の構成を決めます。100字というのは、いきなり書き始めてもどうにか収められる字数です。しかし、練習では構成をきちんとイメージし、できれば書いておくべきです。
・30年後には、放送に必要なカメラから中継用機材まで全部人が運べるサイズと重さになる(約40字)
・中継車のかわりに「中継用スーツケース」が使われるようになる(約30字)
この2つの部品をどうつなぎますか。接続語の使用は文章を上手にまとめる上でとても重要です。考えてみてください。上の例の場合、「この結果」「だから」などが使えます。そして、最後はどうまとめましょう。理由なので「~から」を使うのが無難です。また、未来のことなので「~と予想されるから」としたらいかがでしょう。
以上のように考えてから解答用紙への清書にかかります。字数を確かめながら行います。
30年後には、技術の進歩で、放送に必要なカメラから中継用機材まで全部人が運べるサイズと重さになると考えられる。その結果、中継車のかわりに「中継用スーツケース」が使われるようになると予想されるから。(98字)
設問をしっかり読み込み、その趣旨に即して想像し、工夫することです……それも、楽しみながら。「中継用スーツケース」にもっと気の利いたネーミングを考えるのも楽しいでしょう。「横浜緑ケ丘高校特色検査模試」の出題
現在、小学校の教科や学習内容の種類が増えつつあります。まもなく英語や道徳が「教科(学習の結果が評価の対象となるもの)」になります。また、コンピュータ技術の発達に関連して、「プログラミング学習」のような内容も追加される予定です。もし、小学6年生の学習内容に新たに何かを加えるとしたら、何が適切でしょうか。
候補は、キーボード実技・マネー(お金)・防災・ペン習字・日本文化の5種とします。教科として独立しなくても、一定の期間、継続して学習する内容と考えてください。
考えた結果を、1位「ぜひ加えるべき内容」、5位「加えるのに適さない内容」、その他、に分類するとして、解答用紙に1位と5位の名称を書きなさい。また、その順位をもとに、あとの問いに答えなさい。
問1 あなたが1位に選んだものについて、それを選んだ理由を60字以内で書きなさい。
問2 あなたが5位に選んだものを、ある人は1位に選んでいました。その人がそれを選んだ理由を推測し、60字以内で書きなさい。
問3 上の内容以外に、小学6年生がぜひ学ぶべきであると考えるものを追加する場合、あなたならどのような内容にしますか。そのタイトルと、それを追加した理由を100字以内で書きなさい。なお、上に示されたものおよび直接関係するものを書いてはいけません。また、ある教科の内容に含まれるものを独立させ、充分な時間を確保して内容を充実させるのはかまいません。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ②
問題2 「秘密基地」企画の作成
「子どもたちが仲間と一時にワクワクした時間を過ごすことができる場所を取り戻そう」というスローガンのもと、子どもたちに図(省略)のような場所が与えられ、この場所の一角に、「仲間と一緒にワクワクした時間を過ごせる「秘密基地」を仲間と協力して作る、という設定です。
この時、どのような「秘密基地」を作るか、その「秘密基地」を仲間に説明・提案するための計画書を作成します。なお、周りから見えない隠れ家である必要はなく、材料は自分たちで手に入れられるものであれば、何を使っても構わないと指定されています。問題分析と解説:楽しめる入試問題―ここでもリアルで具体的な想像と工夫
「秘密基地」とは今年も意表を突く設定です。問題を作成した先生自身が、ワクワクしながらイメージをふくらませたのではないでしょうか。大いに想像力を広げましょう。まず、解答者自身が「ワクワクできる」が始まりです(女子生徒には「秘密基地」というのは多少違和感が残るかもしれませんが)。
そこから、地図も参照しながらイメージします。「隠れ家」の必要はないので、仲間だけの時間を過ごすことができる場所、と解釈します。そして、「何をどのように楽しむ場所」とするのか、工夫して考えるべきでしょう。せっかく、山や木々や小川まであるので「心ゆくまでゲームに没入」「みんなでサッカー中継を観戦」などにはしないのが賢明です。
設問からは「子どもたち」が何歳までを指しているのか明確になっていません。みなさん自身の年齢も想定可能でしょうし、もう少し低くしてもよいでしょう。
では、解答例の下書きを示します。作文問題と同じように、「企画書」問題も、下書きを作成しないと、整理された分かりやすい説明にするのは困難です。あなたなら次のメモをどのようにふくらませ、どのように説明するか、考えてみてください。下書きなので、項目の末尾が動詞だったり名詞だったり、不統一なままです。その整理も課題だと考えてください。- □テーマ
- サバイバルを兼ねた「秘密基地生活」
数日間、仲間と一緒に、このエリア内だけで完結するサバイバル生活を楽しむ。
住居づくりや食料確保、火おこしや調理まで全て自分たちで行う。
ただし、調理器具と食器、寝具およびスポーツ用具だけは持ち込む。 - □土地活用
- 地図中の場所を次のように活用する。
・小川:魚釣りによる食糧確保+水の確保(沸かすまたは蒸留)
・小高い丘:東に樹木、西が小川、北が小高い丘なので、ここに基地本体(住居)を作る
・大木:上にバードウォッチング用の簡単な見張り小屋を作る
・雑木林:昆虫採集・昆虫観察・バードウォッチングなど+枝を乾燥させて薪にする
・平地:サッカーなどのスポーツを楽しむ
「横浜緑ケ丘高校特色検査模試」の出題
あなたは、地域の科学館主催の次のようなコンテストに応募します。
□小学生のための「発電競技」アイデア募集!
廃校になった小学校の敷地を、将来エネルギー関連の展示・体験施設に使用する計画があります。その準備もかねた行事として、小学6年生による「チーム対抗発電コンテスト」を開催します。
10人単位の複数のチームで「発電競技」を行い、発電できた電気の量を競います。そこで、競技の内容と方法のアイデアを募集します。
テーマは「団結と工夫とエネルギー」です。発電に必要な機材や用具類は協賛企業が用意してくれます。また、元小学校の敷地や設備は自由に用いてかまいません。
1時間~数時間程度の競技を考えて、記入用紙の形式に合わせて案を記してください。
以上の条件に沿った内容を考えて、解答欄に書きなさい。なお、必要に応じて箇条書きや図やイラストなどを用いて表現してかまいません。
2017年度の柏陽高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
データ A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 2/時間 50分/配点 200点/観点:理解力・情報活用能力・論理的思考力・表現構成力
2017年度募集定員:318名 / 2017年度志願者数:486名 / 2017年度志願競争率:1.53倍
オーソドックスな教科横断型と学力検査の発展型の組み合わせによる特色検査
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問題の概要
教科横断的な読解問題が2題続く
- 問1
- 「ビタミンC」発見のエピソードにまつわる大航海時代~近代の歴史の文章を読みます。この内容から発展するように、理科・社会の活用的問題を中心とした様々な教科の問いが並びます。オーソドックスな「教科横断型」の特色検査です。
- 問2
- 英語の対話文読解です。「カモメ高校のオープンスクールでの在校生と受験生の対話」が題材です。ここから、一般的な読解、算数の問題、データの読み取り、図形的パズルなど多様な設問が並びます。文章から様々な教科に広がっていく構造は問1と同じです。
柏陽高校の特色検査は、文章を出発点にした教科横断型と言えます。ただし、設問を個々に見れば、単教科が多く、また、選択問題が多いので、読解力が特に重要になっています。
文字数は毎年県下最多レベル。2017年も12,400字とかなりのボリュームです。英単語は約900語。横須賀高校の特色検査と並ぶ最多級で、静岡県(1100語:2016年)、新潟県(1300語:同)などの「入試英語」に迫る単語数です。 -
設問一覧 難易度平均[5.5](昨年度は5.8) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
全体に「速く正確な」読解と判断を求める特色検査
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設問の特徴
外観は教科横断的だが、単教科型のシンプルな設問が多い
「教科横断型」の特色検査にも、2つのタイプがあります。第一は、設問個々を取り出して見ると単教科型になるもの。第二は、1つの設問に複数の教科の内容が盛り込まれているものです。
柏陽高校の特色検査の問1は、前者の典型です。「航海」や「ビタミン」などの話題を軸にして、ストーリーが展開するように、さまざまな教科の設問が並びます。しかし、前ページの表でも分かるように、設問単位では「理科」「社会」のように、問題解決に使う教科の内容は1つに特定できます。様々な教科の設問群を、テーマによってまとめ連続させたものと言ってもよいでしょう。柏陽高校の特色検査は全体にこのタイプが中心です。
第二の「1設問内でも教科横断」タイプは、問2にいくつかある、英語で書かれた数学の問題(またはパズル)です。これは、1つの問いの解決に複数の教科の知識を用います。より複雑で幅の広い設問です。
読む文章が長いので、読解に時間をとられます。英語は単語数また、教科横断的な展開をしますので大変そうに見えますが、単教科型の出題が多く、説明記述などの手間のかかる問いも多くないので、実質的には解きやすい部類に属します。
結果的に、柏陽の特色検査では、設問の印象にうろたえることなく、正確にていねいに解くことが重要です。 -
昨年との比較
教科横断色が強まる・説明記述が減少→ やや易化した特色検査
設問数は変わりませんが、選択問題が増えました(44%→68%)。同時に、説明記述などの「しっかり書く問題」がここ2年は減少傾向にあります。2015年度は説明記述と論述が全体の3分の1を占めていましたが、昨年は6分の1、今年2017年は19問中1問だけになりました。
結果、やや解きやすくなりました。
ただし、柏陽高校の特色検査は、見た目上の構造・形式や設問の性質・配列パターンなど、年によって大きく変化します。「変化し続ける」という前提で考えるべきでしょう。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
問1(エ)(カ)腐敗と微生物の研究史に見る「仮説検証と比較対照実験」
(エ) (1)大航海時代、遠方に渡航する船には、長期保存に適する「堅焼きパン」などが積まれていました。長期保存に適した理由は、微生物の繁殖に何かが不足していると考えられます。その不足しているものを選びます。(2)食品の腐敗をもたらす微生物について、「空間から微生物が自然発生する」という仮説が議論されていました。この仮説を否定するために「フラスコに入れたスープを熱して殺菌し、すぐにフラスコを密封」という実験が行われ、結果、スープは変質しませんでした。しかし、これだけでは自然発生を否定しきれないという指摘がありました。それは「密封で( )がなくなったために微生物が生きられなかった」可能性が残ったためです。この空欄の語を選びます。(3)微生物が自然発生しないことを利用した食品を選びます。
(カ) ビタミンCが柑橘類から摂取できることを明らかにした歴史的なありました。この実験において、研究する群と比較対象群を設定し、一つ以外の条件を一定に揃えるという画期的な手法がとられた事実を読みます。この文脈から「比較対象実験」の考え方を説明します。今年度唯一の説明記述問題です。問題分析:理科的な判断を素材に、さまざまな分野のできごとに触れる
問1は歴史の話題から、医学、物理、生物などにまで話題が広がります。
(エ)(カ)では、仮設を立て、実験を行い、結果を考察して結論を導くという、科学の基本的考え方の実例を体験します。
「船の運動」「微生物による腐敗」「比較対象実験」などの話題そのものは特別珍しいものではありませんが、その具体的な「中身」を、問題を解いて体験するという興味深い構成です。
設問を解くことが、科学的な思考を深める効果もありますし、このような出題には、日常の学習を、語句や「この実験ではこうする」などのパターンの暗記に終わらせないように、というメッセージがこめられています。
「教科横断」というと、異なるものを結びつけて組み立てるような印象をもつかもしれませんが、本来は反対です。あるものごとを知るためには極めて多様な接し方や考え方があるのです。その「接し方・考え方」を分かりやすく区別したのが「教科・科目・分野」なのです。ですから、「教科横断」というのは、ものごとを知るための常識的な方法に過ぎません。そのことを実感させてくれる問いです。「神奈川県特色検査模試」の出題
イギリスの学者フィッシャーによる「ランダム化実験」の手法について説明された文章を読んで、問いに答える。(文章資料など省略)
問1 資料1の「ランダム化比較実験」の「ランダム」とは、でたらめで何の規則性も法則性もないことを意味するが、数がランダムにかつ無限に続いている具体的な数値を二つ、日本語で答えなさい。
問2 資料1において、フィッシャーの実験は「ランダム」を用いたことで、歴史に残るできごとになったということが説明されている。では、なぜランダムである必要があったのか、その理由をかんたんに説明しなさい。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ②
問1(オ) クックの北極海航路を緯度経度情報から地図に表示
英国海軍軍人クックの第三回航海の説明があります。「ニュージーランドから北上して北極海を目標に進んだが、入り口から先に進めず断念し、帰路、ハワイに立ち寄った」という記述を地図上の場所にあてはめ、緯度・経度を正しく表示した数値を選びます。
問題分析:地理(緯度経度)と数学(座標平面)の接点―教科横断型のパズル
教科横断型の設題は、学習内容の意外なつながりに気づくきっかけになります。
この設問は、緯度経度を用いた場所の特定ですから、教科としては社会に属します。しかし、平面上での緯度経度による場所の特定は、座標平面の考え方と同じシステムを用います。緯度経度の基本的知識があれば、ていねいな作業で解決できるある種の「パズル」ですが、同時に数学の設問との共通点も感じられるはずです。繰り返しますが、学んだことがらは、教科のワクに閉じ込めておくべきものではありません。「問題解決」のためにどんどん活用するべきです。「特色演習」の出題
次の文章は、松尾芭蕉(1644-1694)の『おくのほそ道』の一節と、その英訳である。これらを読んで次の問いに答えなさい。(語注は省略)
【原文】
三代の栄耀(えいやう)一睡(いっすい)のうちにして、大門の跡(あと)は一里こなたにあり。秀衡(ひでひら)*が跡は田野になりて、金鶏山(きんけいざん)のみ形を残す。まづ高館(たかだち)に登れば、北上川南部*より流るる大河なり。衣川(ころもがわ)は、和泉(いずみ)が城を[ ]、高館(たかだて)の下にて大河に落ち入る。泰衡(やすひら)らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、夷(えぞ)を防ぐと見えたり。さても義臣すぐつてこの城にこもり、巧名(こうみょう)一時の草むらとなる。「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」と、笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍(はべ)りぬ。
夏草や 兵(つはども)どもが 夢のあと
【英訳】
The *glory of three *generations of the *Oshu-Fujiwara *vanished like a dream. The *ruins of their *Nandai-mon Gate are one miles away from here. The place which was *once *Hidehira's *palace are now *fields, and there only *Kinkei Mountain *remains. When I climbed the *hill, there was a *castle which *Yoshitsune and his group lived in. From the castle, I can see Kitakami River. It is a large river. *Koromo River *joins Kitakami River through *Izumi-ga-Jyo Castle, which is the ruin of Hidehira's palace. The ruin of *Yasuhira's palace is in the *Koromogaseki. And there it *seems that he *fought against the *barbarian. At that time, Yoshitune's castle was famous because he and his group *played an active role. But now no one can see its glory.
"Countries may *fall, but their rivers and mountains remain when spring comes to the castle, the *grass is green again;" This *poem *went through my head when I sat on the ground and put on my *bamboo hat under me. There I kept on crying, *unaware of the passage of time.
Mounds of summer grass the place where noble soldiers one time dreamed a dream
(1) 上の一節には「高館」「北上川」「衣川」「和泉が城」などの地名が登場する。これらの位置関係を正しく表している図はどれか。古文および英文を読んで、文中の空欄も含めて推測し、最もふさわしいものを次のア~エの中から選んで、記号で答えなさい。なお、図の上は北を示し、図中の矢印は北上川の流れを示すものとする。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ③
問2 英文読解を土台にした計算・判断などのパズル的問題群
「カモメ高校」の公開授業で、日米の中学生および在校生2名の計4人が交わした会話による問題群です。
データの読み取り、数値の判断、図形、場所を選ぶパズル、図形パズルなどが並びます。問題分析:英語で書かれた数学とデータ読み取り―教科横断型の応用題
英語そのものは特別に難しくはありません。しかし、先にも書いたように、コンパクトな「英語入試問題」に近いボリュームな上、単に英語が分かれば解決できる問いは多くありません。英語を道具として活用し、さまざまな問いに答えなければいけません。「英語を使いこなすこと」を重視した出題です。
個々の設問は特別に難しいわけではありません。しかし、英語と組み合わされていますし、常に英文の内容を参照しながら解かねばならないので、時間的に厳しくなっています。 なお、「英語の活用」は、神奈川県の公立高校入試にも近年確実に出題されています。2017年は「駐車場の料金計算」でした。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
次の英文を読んで、文章中の空欄( ① )にあてはまる適切な語句を小文字で書きなさい。
I will tell you about “*Caesar Code”. In the Caesar Code, each *letter is changed into another letter. For example, A is changed into C, B is D, and Z is B. Each letter is changed into two letters after *alphabetically. This is called “The *Shift of 2” You can see another move. If you choose “The shift of 5”, each letter is changed into 5 letters after. So A is changed into F.
I made a message by using Caesar Code. This is written by shift of 3. Each letter should be changed into 3 letters before. You have to change my message by changing 3 letters before.
My message is this. “kdssb eluwkgdb” Can you see my original message? It is “( ① )”.[語注]Caesar Code:シーザー暗号 letter:文字 alphabetically:アルファベット順に shift:移す「特色演習」の出題
We make a *square with eight *rectangles. Each rectangle is that a long *side is twice as long as a short one. But we want to *arrange *in order that one *edge of four rectangles cannot *be focused on one point. How should we arrange the eight rectangles? Draw the rectangles into your answer sheet.(語注省略)
「特色演習」の出題
There is a *Parallelogram ABCD. On the *Diagonal line AC, we put the *Point E and Point F to become AE= CF. When we *prove BE=DF, select the *proper Japanese words into the *blanks [ A ] to [ D ].(語注省略)
‹*Proof ›
In two *triangles, △ABE and △CDF
From [ A ], AE=CF . …①
Because the *length [ B ] of a parallelogram *equal, AB=CD. …②
From AB//DC, because [ C ] is equal, ∠BAE=∠DCF …③
From ①, ② and ③, because [ D ] is equal with each other, △ABE≡△CDF.
Because the length of each *side in two triangles is equal, BE=DF.
‹End› [ 語群省略 ] -
課題と対策
幅広い読解演習+日常学習の深化
特定の教科の知識を求めるものよりも、示された情報をもとに判断するタイプの設問が、特色検査に増えました。
ただし、柏陽の特色検査は傾向も難易度も大きく変わることがしばしばです。一貫しているのは「読解力重視」、つまり「情報を正確に読み取る」ことです。これらの大切さは、どれだけ強調してもしすぎではありません。
日本語でも英語でも、長くて内容豊富な文章の読解に慣れるのが第一です。
また、それぞれの教科の入試問題(神奈川県に限らない幅広いもの)まで経験を積み、見た目が変化しても、内容が珍しくても、安定して正答できるだけの正確さを身につけることです。日常的な学習内容をしっかり固め、発展的活用的なものにまで広げることが課題です。2018年度以降の特色検査や高校入試で、また起こるかもしれない変化にも対応する「基礎体力」を作りましょう。
未知のものに触れて知識や経験を拡大することは、本来とても楽しいことです。さまざまな情報について「この問題はどうやって考えたらいいのかな?」「どうやってまとめようかな?」「一言で表現すればどうなるかな?」などのように、楽しみながら考えることができるようになれば、特色検査のある柏陽高校への合格に近づき、知的能力も向上します。
2017年度の希望ケ丘高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比= 3 : 5 : 2 : 2 / 時間 50分 / 配点 200点 / 観点:表現構成力・情報活用力・判断推理力・論理的思考力
2017年度募集定員:358名 / 2017年度志願者数:425名 / 2017年度志願競争率:1.19倍
論理思考重視のパズル度100%の特色検査―設問数倍増で難化
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問題の概要
国語の論理と数学の図形・計算が柱―全設問がパズルと言える
- 希望ケ丘高校 特色検査
特徴と変化 - 1全体的傾向 論理・数学・データ読み取り重視
- □変化なし
- 2教科の傾向 論理と数国中心・英語なし・知識の比重極小
- □数学の比重がやや拡大
- 3形式の特徴 説明記述問題の使用は限定的・選択と計算が中心
- □設問数ほぼ倍増
- 課題1
- 立方体のパズル+文章読解(適語補充と文章整理)
- 課題2
- 物価の変化に関する計算と歴史の問題+古地図などの情報読み取り
- 課題3
- 計算と言語論理のパズル
- 課題4
- 数学:計算と場合の数の応用題
希望ケ丘高校の特色検査に英語はなく、全体に「論理」を重視した検査です。知識によって解決する問題は多く見積もっても2問しかありません。全問が、示された条件や説明に従って作業して解く、ある種のパズルです。歴史や地理の問題も、知識は用いません(強いて言えば、「富士山は江戸の西にある」という知識が求められる設問がありますが、常識の範囲内でしょう)。数学的な出題でも、中学で学んだ「解法」は、希望ケ丘の特色検査にはほぼ使用しません。
- 希望ケ丘高校 特色検査
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設問一覧 難易度平均[6.0](昨年度は6.1) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
論理的判断力と情報処理力を重視したシンプルな設問が多数
「読解プロセス」「解答プロセス」はシンプルですが、「思考プロセス」が大きいのが希望ケ丘の特色検査の特徴です。「思考」重視と分かります。また、表に「知(知識)」マークはありません。論理重視であることが確認できます。なお、パズル的傾向の強さは横須賀高校も同じですが、横須賀には英文読解があり、英語の知識が必要なので、特色検査における希望ケ丘の「パズル傾向」は、神奈川県下最高です。
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設問の特徴
知識要素はほとんど無し・その場の判断と作業が中心
希望ケ丘高校特色検査の設問の特徴を見ると、「論理重視」すなわち、国語・数学中心とも言えます。一部に社会科的出題もありますが、データ読み取りまたは配置のチェックなどが中心なので、知識を求める要素はほぼありません。その意味では、ほぼすべてが国語または数学のパズル、とも言えます。
国語と数学の教科としての共通点は、覚えることよりも「筋道立てて判断する」論理が中心であることです。一見無関係に見える国語と数学が、論理という深いレベルでつながっていることを教えてくれる興味深い設問です。
また、英語が無いことも、知識より論理的思考力を試すために特色検査を位置づけていることが分かります。知識的要素は学力検査に任せ、特色検査では独自のカラーを強く打ち出そうという希望ケ丘高校の方針がうかがえます。 -
昨年との比較
設問数がほぼ倍増し、時間的な負荷が大きくなる―パズル重視の方針は変わらず
希望ケ丘高校の特色検査について、設問数や形式を過去の特色検査と比べてみます。
2016年度の11問から21問と、ほぼ倍増しました。最初に複雑な立体パズルが置かれていることもあり、希望ケ丘高校としては、これまでで最も「時間的に厳しい」特色検査になりました(2013年度:9問 → 2014年度:11問 → 2015年度:17問 → 2016年度:11問 → 2017年度:21問)。
基本的な出題方針は変わっていません。「立体」「言語論理」「データ」「平面図形(地図)」「言語論理」「数値」など、パズルの各分野がバランスよく並べられています。昨年度に比べると、各分野の設問が少しずつ増えたことと、課題3の数学的問題群が加わったことで増量されています。希望ケ丘高校が過去に出題したパターンを拡大したような印象を受けます。なお、2017年は、昨年に比べ選択問題の割合が低下しました。これは主に数値の記述が多いためで、特色検査において、特に書く作業の負担が大きくなったわけではありません。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
課題1[A]立方体の積み方のパズル
設問1 同じ大きさの多数の立方体を用意します。すき間なく並べた立方体でできた立体の向かい側まで突き抜ける穴をあけるとします。8個の立方体で大きな立方体を作り(右図)、図の●の位置に穴を開けるとした場合の設問です。
(1)6面すべてに穴があいている小さい立方体は何個あるか。
(2)2面のみに穴があいている小さい立方体は何個あるか。
設問2 (1)~(3)同じように穴の空いていない立方体を20個用意して積み重ね、●▲★の3種類の形の穴を同じようにあけたときの、指定された条件のように穴のあいた立方体の個数や、穴の形状によって点をつけた場合の、指定条件の「点」をもつ立方体の個数を求めます。設問1をより大規模に、より複雑にしたものです。
問題分析:作図力とイメージ力+正確さで勝負
立体パズルは、神奈川県特色検査初年度からよく用いられた素材です。特色検査全体でもポピュラーな分野です。2017年は希望ケ丘高校、柏陽高校、湘南高校で特色検査に出題されています。
解法には特別な難しさはありません。本物があれば比較的容易ですが、無いので作図して、3次元の立体を2次元上でチェックします。
設問1(1)は見えている3つの面を順に考えます。手前側の面では、右上と左下に穴があるので、候補は4つに絞られます。上の面は、奥側右と手前側左に穴があるので、候補はさらに2つに絞られます。最後に右側は、3箇所に穴をあけているので、すべてに穴があいているのは1個だけと分かります。同じように(2)も考えます。設問2はより複雑ですが、基本は同じです。
文字にすると分かりにくいので、手を動かしながら考え、作図力とイメージ力で解決します。あとは、正確さを失わないように最後まで注意深く作業することにつきます。練習量(つまり「慣れ」)によってかなり差がつく分野です。「神奈川県特色検査模試」の出題
形も大きさも同じ直方体の箱を、図1のようにすきまなくピラミッド状に積み上げる。この立体を、3点A、B、Cを通って切り口が平面になるように切る。切った様子を右から見ると図2のようになる。このとき、図1および図2を参考にして、切断された直方体の個数を求めなさい。
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問題・分析・湘ゼミの対策例 ②
課題2―設問1・2 歴史上の貨幣価値を計算して現代のものに変換する
この100年間の「企業物価指数」の統計データをもとに、計算や年代の判定を行います。年表があるので歴史の問題かと思いますが、実質的には計算とパズルです。
問題分析:「活用」とは、文系も理系も関係ない「課題解決」
統計データの読み取りは、学力検査の全教科に用いられていますし、2017年の特色検査では横浜緑ケ丘以外の全高校で出題されています。
計算では「異なる単位システム間で、数値を自由に換算する」ことが求められています。パターン化された「公式の適用」ではなく、与えられた情報(条件)に応じて自力で判断して計算します。コンパクトな「活用型」計算問題です。社会と数学というと、文系理系で正反対のイメージでとらえる人が多いのではないでしょうか。しかし、現実に「この時代のこの価格は今、いくらになるのだろう?」という疑問を解決するためには、数学の力が必要になります。歴史的な事件がその後の社会にどんな影響を与えたのか考察するためには、データの読み取りは極めて重要です。
シンプルですが、文理の「見えない壁」を越えるように促す典型的な「教科横断・活用型問題」です。「特色演習」の出題
日本の社会・経済などが米および水田を基準に構成されてきたことは広く知られている。右の資料は、米の体積や重さ、関連するエネルギーなどを示したものである。
太閤検地以来、武士の領土は面積ではなく米の標準収穫量(石高(こくだか))で表示された。江戸幕府は、将軍に直接仕え1万石以上領有する武士を「大名」とよんだ。そして、1万石の石高の米をすべて食用に用いると、およそ1万人程度を1年間養うことができるといわれた。では、資料の内容を参考にして、この人数をより正確に計算して求めなさい。なお、解答は四捨五入し、上から二桁のがい数で答えること。
「特色演習」の出題
次の資料は、わが国のGDP(国内総生産)の成長率の推移を表している。GDPの成長率とは、前の年のGDPに対し、何パーセントの増減があったのかを計算した結果の数値である。一般にこの数値を「経済成長率」とよぶ。このグラフを見て、次の質問に答えなさい。
① 1956年から1990年までの期間において、わが国のGDPが最大であったのは西暦何年のことと考えられるか。答えなさい。
② このグラフを見て分かる範囲において、経済成長率の最も大きな変化があった年と、その原因になったと想像されるできごとを答えなさい。
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代表的な問題と湘ゼミの対策例 ③
課題3[A][B] 典型的な「論理パズル」
[A]委員会活動の人員と曜日などの条件を読んで机の使用について判断する論理パズル。
[B]A~Eの5人による100m走の結果について、それぞれが自分と誰の結果について、次のように発言しました。
A 私は2着で、Dは5着 B 私は5着で、Cは2着 C 私は2着で、Aは4着
D 私は4着で、Bは1着 E 私は4着で、Cは1着
それぞれが片方の結果について本当のことを言い、もう一方の結果についてはうそをついていたとします。正しい順位はどうだったのか、順に解答します。問題分析:思考・判断の強力な武器は「図式化」
神奈川県特色検査の対策では、このような言語による論理パズルは、何よりもていねいに読んで正確に整理することです。
手順を解説しましょう。仮定を立て、よく読んで矛盾することを消去しながら進めます。
① Aの発言が前半「私は2着」が正しく、後半「Dは5着」がうそだったと仮定します。
② Bの発言「Cは2着」は、Aが2着であることからうそであり、「私は5着」が正しい発言です。Cの発言「私は2着」はAが2着であることからうそ、「Aは4着」もAが2着であることからうそなので、矛盾が生じます。そのため、はじめの仮定が誤りだったと分かります。
③ Aの発言は前半「私は2着」がうそ、後半「Dは5着」が正しいと分かりました。
④ Bの発言は、「私は5着」がうそ、「Cは2着」が正しいと分かります。
⑤ Cの発言「私は2着」は正しく、「Aは4着」がうそです。
⑥ Dの発言は、「私は4着」はDが5着であることからうそ、「Bは1着」が正しいことになります。
⑦ Eは「Cは1着」が、Cが2着であることからうそとなり、「私は4着」が正しい部分です。
⑧ よって、Bは1着、Cが2着、Dは5着、Eは4着です。残った3着がAとなります。
読んで分かりやすいかというと、そうは言えません。文字情報をそのまま文字情報としてあつかうだけではかえって混乱してしまうことがあります。このような時に役立つのが「図式化」です。次のような表を作成してみたらどうでしょう。上の①~②までの部分を図式化します。この後も同じような方法を用いれば、矛盾を正確に追うことができます(続きは一度試して下さい)。
表・グラフ・数式などは、情報の関係を一定のルールによって「見て分かる」ように整理する道具です。課題に応じて使いこなすことができると、問題の所在や矛盾、過程などを把握するための武器になります。
なお、この文書の最後で、より広い範囲でものごとの大小を比較できる強力なツール「ベン図」を紹介します。大小や「含む・含まれる」などの関係を図形的に表現します。特色検査対策、ことに、希望ケ丘高校の特色検査問題の解決にベン図は(年によって)かなり重要な意味をもちます。もちろん、一生役立つスキルです。「特色演習」の出題
(1) 運動会の日。赤い帽子が3つ。白い帽子が2つあった。
先生が鶴見さん、泉さん、戸塚さんの3人をこの順番に並ばせ「前へならえ」をさせて、それぞれ5つの帽子の中の1つをかぶらせた。残りの帽子は誰にも分からないようにかくしてしまった。
一番うしろの戸塚さんは前の2人が何色の帽子をかぶっているか見えているが、自分の帽子の色は分からない。
真ん中の泉さんは、一番前の鶴見さんが何色の帽子をかぶっているのかが見えているが、自分や後ろの戸塚さんの帽子の色は分からない。
一番前の鶴見さんは、自分も他の人の帽子の色も分からない。
先生はまず、最後の戸塚さんに「自分の帽子の色が分かりますか?」と質問した。
戸塚さんは「分かりません」と答えた。
次に真ん中の泉さんにも同じ質明をした。
すると泉さんも「分かりません」と答えた。
しかし、1番前の鶴見さんは2人の発言を聞いて「分かりました!」と答えた。鶴見さんの帽子の色は何色か、答えなさい。
(2) あなたの目の前に「志望校入口」と書かれた2つの扉があります。
1つは本当の扉です。入学できるのです。しかし、もう1つは開けてはいけない扉で、志望校どころか、魔界に通じています。
どちらが本当の扉かを知っているのは、扉の前にいる2人の門番だけです。
1人はウソをつかない天使。もう一人はウソしかつかない悪魔。左右どちらがどちらかは分かりません。
2人のうちどちらかに1回だけ質問をして本当の扉を見やぶるには、どんな質問をすればよいでしょうか。 -
課題と対策
常に言葉を厳密にあつかう+頭と手を動かす
論理というと、難しい印象を受けるかもしれません。ですが、例えば、「~のみ」「すべてを含む」や「ゆえに~」などの「意味の関係を表す言葉を厳密に、よく考えて使う」ことに尽きるのです。日々正確な日本語を使うよう意識しましょう。
練習ではパズル的な問題における作業の正確さが重要です。複雑な立体の設題に挑戦し、「問題は手で書いて解く」ことを心がけてください。また、南附中・サイフロ附属中のような公立中高一貫校の適性検査にパズルが多いので、中学生の特色検査対策で、練習の選択肢に加えることをおすすめします。
最後に、「特色演習」から、希望ケ丘高校が求めるような「論理」について解説した部分を引用します。「特色演習」の解説から
「論理」とは前にも書いたように「○○だから●●である」といった、ものごとのつながりを表すものです。その代表的な書き方が西洋論理学の伝統「三段論法」です。では、その例です。
1:すべての日本人は人間である
2:すべての人間は必ず呼吸をする
3:(だから)すべての日本人は必ず呼吸をする
ここに示した「論理」とは、何を、どう言っているのでしょうか? 次のように図式化しましょう。
1:日本人 = 人間
2:人間 = 呼吸するもの
3:日本人 = 呼吸するもの
これは正しくありません。日本人はたしかに人間ですが、人間がすべて日本人ではありません。同じ事が人間と呼吸をするものの関係にもあります。あえて数式の記号で表すなら、次のようになるはずです。
1:日本人 < 人間
2:人間 < 呼吸するもの
3:日本人 < 呼吸するもの
この関係を、以前、別の箇所で紹介した「ベン図」を使って表しましょう。右の図です。さて、高校数学で習う「集合」では、この関係を次のように表します。次の記号「∈」は「含む」と読みます。その通りの意味です。逆向きもあります。
日本人 ∈ 人間 ∈ 呼吸するもの
ちなみに、この「三段論法」の結論は、次のとおりです。
日本人 ∈ 呼吸するもの
「たったこれだけのことに大げさな……」と思いませんでしたか?
そのとおりです。たしかに大げさです。でも、見直してください。先の例でも、つい「日本人は必ず呼吸する」を「日本人=呼吸をするもの」と誤ってしまいました。言葉というものは、こんなにかんたんに誤った表現ができてしまうのです。だから、厳密さを優先する「学問」の世界では、ある程度、世界共通の記号や説明の方法を整備して、誤解を減らそうとしているのです。
なお、この「三段論法」の手順を見て「数学の証明に似ているな」と感じたあなたは実に鋭い。そのとおりです。似ているのではなく、数学の証明の方法は、このような言語を抽象化(図式化)して組み立てられたものなのです。
上記のように、三段論法の考え方が、希望ケ丘をはじめとした神奈川県公立高校の特色検査の対策で重要になります。
2017年度の横浜サイエンスフロンティア高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 2/時間 60分/配点 200点/観点:課題設定力・情報活用力・課題解決力
2017年度募集定員:238名 / 2017年度志願者数:369名 / 2017年度志願競争率:1.55倍
最少の設問が最大の工夫を要求―サイエンス・リーダーの資質を問う表現力重視の個性派
-
問題の概要
「IoT」をめぐるワンテーマ問題群―解決策提案(プレゼンテーション)が中心
- 横浜サイエンスフロンティア 特色検査
特徴と変化 - 1全体的傾向 資料読解+問題解決型プレゼンテーション
- □変化なし
- 2教科の傾向 各教科の要素が統合された総合的問題
- □変化なし
- 3形式の特徴 語句記述・説明記述もあるが主力は論述
- □変化なし
2017年の横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)の特色検査の題材は、「IoT(Internet of Things インターネットによる多様な「モノ」の接続)」です。この数年は、「自然科学(技術)と社会科学」を幅広く理解して考えようという、幅も奥行きも広いものです。
[1]は英文読解。
[2]はグラフ読み取り。
[3]はコンビニなどで活用されている「POSシステム」に関する考察。
[4]はサイエンスフロンティア高校入試ではおなじみの「図やイラストも使用できる」プレゼンテーション型の特色検査問題です。「IoT」による課題解決システムを提案します。
設問数は、事実上、神奈川県下で最少です(一種の「作文」である横浜緑ケ丘高校の特色検査を除く)。 - 横浜サイエンスフロンティア 特色検査
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設問一覧 難易度平均[7.4](昨年度は7.5) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
少数だから慎重に・最後はプレゼンテーション・じっくり考えて解答したい
平成29年(2017年)のサイエンスフロンティアの特色検査問題について、解答するプロセスを見ると、「読解」についてそれほど難しい要素はありません。むしろ、読み取った内容から作図したり意見を述べたりといった、「書く」部分のボリュームが大きいことが特徴です。
特に最後の「プレゼンテーション問題」には、内容はもちろん、図表などの手段をどう活用するかなど、考えるべきことがたくさんあります。資料のボリュームはありますが、設問が少ないので、じっくり考えて解答する時間はあります。それだけに、よく練った解答を書けるかどうかが重要です。この点が、複雑な情報と多数の設問で、読み取りに手間のかかる「速度重視」タイプの他の高校の特色検査との違いです。
横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)の入試は、以前の神奈川入試の前期選抜の時代以来、受験者に求める思考の質から、3つのパターンに分けられます。次にその分類を示します。特色検査においても基本的な構造は毎年一定しています。なお、各行の最後は、今年の設問番号です。
1:情報処理 与えられた情報を客観的につかみ、判断したり計算したりする [1]
2:推理 与えられた情報から、理由や問題点などを推理して、説明する [2] [3]
3:プレゼンテーション 与えられた情報をもとに、解決策などを提案し、説明する [4] -
設問の特徴
説明し、提案する「出力重視」の特色検査
前半は比較的軽い設問ですが、後半には説明記述などが集中しています。「問題点の発見を含めた解決策の提案」が、サイエンスフロンティア高校特色検査における課題です。時間には比較的余裕があるので、後半の大規模な設問にじっくり取りくむことが可能ですし、そうしなくてはいけません。
最後は図の使用も可能な「プレゼンテーション」です。「IoT」の案を説明します。ただし、資料にあるものは禁止されています。また、次の内容を含めること、という指定があります。
・解決したい生活上の問題点
・考案したシステムを使うにあたっての問題点(故障や誤作動を除く)
自分自身で考えた課題解決であることと、問題点も同時に考えておくことが求められています。以上の指定は、一見めんどうに見えますが、提案の基本的な方法を教えてくれているという面があります。「このような生活上の課題を解決します」「しかし、このような問題もあります。注意が必要です」という内容を備えた提案とすることで、説得力が増します。身につけておきたいことです。
なお、前半の小規模な設問も配点が大きいので、少々のミスが大ダメージになります。注意してください。 -
昨年との比較
方針は一貫して変わらず―グローバル・リーダーの資質重視
説明・提案の重視は2017年の特色検査でも基本的に変わっていません。また、科学技術による社会的課題の解決というテーマは昨年の特色検査と同じです。過去に何度か、やや「サイエンス離れ」の傾向が見られましたが、この2年、科学技術への関心とその社会的応用をたっぷり求める設問が、サイエンスフロンティア高校の検査に続きました。
2018年度の特色検査で、今年のようなサイエンス(自然科学)および技術色が強いものと、過去に何度かあった社会科学色が強いもののどちらが出題されるか分かりません。しかし、横浜サイエンスフロンティア高校の求める人物イメージを知ることで、どちらも必要ということは理解できるはずです。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例
[4]現実社会の課題を解決する「IoTシステム」を提案・説明する
IoT(あらゆるものをインターネットでつなげることで新しいサービスを生みだしたり、生産効率を格段に高めたりする技術)に関する問いです。現在の日常生活の中で解決したい課題を挙げ、それを解決するためのIoTシステムを1つ考えて説明します。資料にあるもの以外で答え、かつ、解決したい問題点とシステムに考えられる問題点も記すよう指定があります。図や絵の使用も認められています。
問題分析・解説:現代社会に関する問題発見とその解決策+説得力ある説明を求める
まず、アイデアを生む発想力が求められます。現代社会の諸問題やIoTなどの技術に関する知識・関心も試されています。「問題解決」について考えた経験が乏しいと、適切な案を考えだすのは困難です。
次に、内容を条件にしたがって組み立てて分かりやすく説明する力が必要です。では、順に確認します。
具体的な内容は、「横浜サイエンスフロンティア高校特色検査模試(2016年秋)」の設問・解答例・解説が内容的にほぼ重なっていますので、以下にそのまま掲載します。確認して下さい。「横浜サイエンスフロンティア高校特色検査模試」の出題・解答例・解説(抜粋)
(医療の諸問題と、その解決のためのインターネット技術がテーマ)- [1]
- 【資料1】の内容について、在宅介護(治療)が、患者の治癒の過程そのものに与える好影響はどのようなものか、答えなさい。(資料1・2・3・4・5・6省略)
- [3]
- 医療(介護)および行政において、「西暦2025年問題」という言葉が用いられている。これはどのような問題なのか。【資料2】~【資料4】の内容をいくつか用いながら具体的に説明しなさい。
- [4]
- 在宅医療(介護)は、医療費の削減その他の面で重要度が高まっている。これを有効に機能させるために、ICT(インターネット情報通信技術)を活用するしくみ、または装置を含めたシステムなどを、【資料】を参考に考えて、説明しなさい。なお、解答にあたっては、その案を考えた理由と、その案によって解決できる問題点も書くこと。また、資料に示されたものを書くことや、資料の引用はしないこと。説明には図やイラストを用いてもかまわない。
資料7(一部) 先端医療技術の例
1. ロボット手術
手術支援ロボット「ダヴィンチ」は4本のアームがあり、1本は内視鏡で、医師が内視鏡で映された患部の3次元画像を見ながら、遠隔操作するロボットアームで手術を行う。のこり3本のアームにメスやクーパーと呼ばれるはさみがついていて、患者の体に約1センチの穴を数か所あけ、アームを挿入して手術する。傷も小さく、それにともなって出血量もすくない。定価は3億円といわれるが、2012年夏で、日本にすでに57台が導入されている。
手術支援ロボットの導入で、どんな変化が起きるのであろうか。
まず、手術が標準化され職人の芸ではなくなる。かつては手術にも熟練の技が要求され、身につけているのは限られた者だけだったが、それが多くの医者によって可能なものとなる。ただし一方で費用はかかる。1台3億円の購入費用にくわえ、年間2500万円といわれる維持費が必要となる。それらは手術費用に上乗せされ、ある病院ではそれが150万円である。旧来の手術費用の1.5倍の値段になる。
(以下略)(「『命の値段』はいくらなのか? "国民皆保険"崩壊で変わる医療」真野俊樹著 角川oneテーマ21より引用・一部表記を改めた)※上の例に、実際には「理由:在宅医療は孤独感が問題となることがあり、解決が必要」が加わります。
◆解答例1の解説(横浜サイエンスフロンティア高校特色検査模試の解説から抜粋・編集)
まず、「何を」「どう」答えるかを設問から明らかにしなくてはいけません。決まりではありませんが、資料を読む前に設問をチェックしておくことをすすめます。資料が多いので、漠然と読み流してしまうと、何をどう用いるかイメージできないまま時間ばかりが過ぎてしまいます。
まず設問の求めるところを正確につかみ、解答の素材を拾い集めることを目的に資料を読むようにすることです。このことは、市立横浜サイエンスフロンティア高校の特色検査全設問だけでなく、現実の問題解決全般にも言える鉄則です。
この設問では何を《What》が「在宅医療(介護)を有効に機能させるために、ICTを活用するしくみまたは、装置を含めたシステムなど」です。そして、どう《How》は「その案を考えた理由と、その案によって解決できる問題点も書くこと」です。「アイデア」「理由」「問題と解決」、が解答の3本柱です。
なお、タイトルをそれと分かるように記述するのも効果的な方法です(表題の「ネットドッグ」とは、ホットドッグにかけたのでしょうか?)。その後はイラストの使用と箇条書き的な処理です。
「センサーベストを着用した介助犬」は、アイデアとしては興味深いものです。ただし、介助犬の訓練などにかかる費用がかかることを考えると、単純に医療費削減に役立つかどうかは一考の余地があります。「センサーベスト」は、現時点では技術的には可能でしょうが、費用が高くつくことでしょう。ただし、このような工業製品は、大量生産によってどんどん値下がりするので、広く使われるようになれば話は別です。設問に指定がないので、必ずしも今すぐ実用化できて、安価であるものに限る必要はありません。できそうな範囲で工夫するのが課題と言えます。
※補足 横浜サイエンスフロンティア高校特色検査模試のこの設問には「システムの問題点を書く」指定が無いので、補います。「介助犬の費用」「よく訓練された犬でも、24時間完全に患者と接し続けることは難しい」などでしょう。
■解答例2
□システム名
国際遠隔監視・コミュニケーションシステム
□発案の理由
インターネットで、全地球的なネットワークが活用可能になる。それによって、24時間体制の医療や介護の可能性が広がると考えたから。
□システムの内容と解決できる問題
1 患者の部屋に、ネットワークとつながった、テレビ電話的システム(モニターとカメラを組み合わせた装置が中心)を配置する。昼間はこれで知人や家族、ヘルパー、医師などとコミュニケーションをとる。
→孤独を感じさせることを減らし、希望に応じてコミュニケーションできるようにする。
2 夜間(深夜・早朝)は、インターネットを通じて、海外の時差の大きい地域の関係者が患者の状態をチェックする。
→時差を活かすことで、日本の医師や家族、介護スタッフなどの費用と負担を減らすことができる。
→もちろん、相手国側に対して、逆のサービスを提供することで、お互いにメリットがある。
→高性能な翻訳装置をつけておくことで、キーボードの操作による対話ができるようにする。寝つけない時も昼間の国の人との会話を楽しめる。
→プライバシーを守る必要があるので、夜間は本人の希望がない限り、変わった動作や信号の異常をチェックする程度にしておく。
→緊急時には、家族・病院への通報を行うことができるようにしておく。
3 健康状態の良い患者はチームをつくり、時差のある外国の似た人々のチームとの相互監視・コミュニケーションをできるようにする。
4 システムそのものや技術を輸出することが貿易での利益につながり、国際貢献にもなる。
□システムの問題点
国や民族による文化や習慣の違いから、異常や緊急の判断基準が異なる場合がある。
◆解答例2の解説(横浜サイエンスフロンティア高校特色検査模試の解説から抜粋・編集)
箇条書き風にまとめたものです。項目がシステムの内容、「→」以降がそれによって得られること、解決される課題を示しています。また、「理由」「問題点(今回補足)」も独立した項目にしています。
この解答は、《概要+理由+内容+問題点》という構造をもっているわけです。文字だけの解答の場合、どうしてもだらだらと続いてしまりがなくなりやすいものです。項目立てや箇条書きなどを活用することをすすめます。
また、内容に応じて、解答欄のスペースを区切ると、読み手が理解しやすくなります -
課題と対策
「どうすればよくなる?」という問題発見と解決策の提案がリーダーの資質
現実におこっている物事を観察して、その課題と解決策を考えるというのが、以前の神奈川入試の前期選抜時代から一貫した、市立横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)の課題です。2018年の特色検査も同じ題材で出題される可能性はありません。しかし、このテーマについて考えてみることには意義があります。大切なのは、「何が問題? どうすればよくなる?」と考え、表現してみる経験です。
「リーダーの育成」といった目標を、全国で多くの高校が掲げていますが、その目標を、入試問題の形で具体化している高校は多くありません。横浜サイエンスフロンティア高校は、特色検査を通じて、現実の社会問題に触れ、考えるよう求めます。
また、「リーダー」たる人物は、単に解決策を立案するだけでなく、その実行のために多数の人々を説得して、さまざまな困難を突破しなくてはいけません。公共性の高い「思考力」と「表現力」の重視が、市立横浜サイエンスフロンティア高校(YSFH)2017年度特色検査の一番の特徴です。
ですから、点を取ること自体が目標なのではなく、将来のリーダーにふさわしい能力を訓練した結果、合格もついてくるというのが理想です。忘れないでください。
2017年度の横須賀高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 1/時間 60分/配点 100点/観点:表現力・理解力・情報活用能力・論理的思考力
2017年度募集定員:278名 / 2017年度志願者数:353名 / 2017年度志願競争率:1.27倍
すべての教科の「パズル」を全面的に展開―狙いを明確に絞りこんだ「作業重視」問題群による特色検査
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問題の概要
英語→数学→社会→理科の4部構成で作業型パズル(一部計算)が並ぶ特色検査
- 横須賀高校 特色検査
特徴と変化 - 1全体的傾向 パズル重視・教科の知識の必要性は限定的
- □パズル重視の傾向が強化
- 2教科の傾向 英語・数学・理科・社会のパズル
- □社会のパズルが加わる
- 3形式の特徴 選択と計算の比重大・ページ数最大
- □変化なし(ページ数は増)
特色検査2年目となる横須賀高校は、2017年も英文読解とパズル的問題にはっきり絞りこんだ個性的な特色検査です。
- 問1
- 英文読解によるパズル。テーマは「日本と、日本を訪れる外国人の関係」。地理的要素もあります。
- 問2
- 数学的なパズルと計算(鉄道料金・図形)と、論理パズルの集合です。
- 問3
- 歴史的素材(平安時代の人名および年表)を用いた情報判断パズルです。
- 問4
- 地学的素材(年代測定)に関する読解、計算、パズルの集合です。
- 問5
- 物理的素材(空気の流れと密度)に関連した情報判断です。必要な情報は全て示されており、知識をほぼ用いないという点ではパズルの一種と言えます。
上のように、5科全ての教科内容が、各種のパズルの素材として用いられています。
―設問数は21。ページ数は神奈川県下最多の20ページ。ただし、文字は最多ではなく、図がかなりのスペースを取っています。英単語は約1000語。柏陽高校の特色検査と並ぶ最多級で、静岡県(1100語:2016年)、新潟県(1300語:同)などの高校入試英語とそれほど変わらない単語数です。 - 横須賀高校 特色検査
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設問一覧 難易度平均[6.3](昨年度は6.7) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
理数の発展型が多数―設問数・文字数・作業数が多いので最後まで気が抜けない特色検査
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設問の特徴
「速さ・正確さ・粘り強さ」を特に重視―単語・熟語集の扱いも重要
特定の教科の知識を必要とせず、その場で与えられた情報を読み、その指示に従って作業するタイプの特色検査問題を「パズル」とします。神奈川県の全ての特色検査の中で、希望ケ丘高校と並んでパズル的な性格が特に強く、英文や歴史もパズルの素材にされています。
例えば、問題1の英語ですが、文中に空欄で示された国がどこであるかを、人物の発言や数値情報を組み合わせて判断します。かなり複雑な作業を要求します。また、英文中の未履修の語彙に目印や語注が無く、別紙の「単語・熟語集」にアルファベット順でまとめられています。語を探しだすのにかなり手間がかかります。集中力の持続も重要で、ここからも横須賀高校の「速さ・正確さ・ねばり強さ」重視が分かります。
「この設問では何をしたらよいのだろう?」と考え込んでしまうような難解さはありません。昨年の「相対性理論の思考実験」や、2017年の「飛行の流体力学」など、用いられる素材はいかにも難しそうですが、実質的には「指示にしたがって正確に作業するだけ」と言ってしまうことも可能です。
全20ページにおよぶボリュームは神奈川県下最大。県立横須賀の特色検査は、文章や図の情報量が多く、作業も多いので、冷静にかつ、速く進めなければいけません。 -
昨年との比較
パズル重視・作業重視の傾向が強まる
2017年度の横須賀高校の特色検査は、英数理社の全教科の題材をパズルに用いています。国語的な文章読解はありません。パズル的な作業重視の傾向はより明確になりました。難易度は読み取る素材が昨年より多少平易になったので、設問としては下がりました。ただし、ページ数増、すなわち、情報量増大もあるので、時間的な厳しさも含めれば、それほど変わっていません。
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問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
問1 英文の情報と数値情報をもとに、英文中の空欄の国名を判定するパズル的読解
日本の高校生2名と、オーストラリア、マレーシアからの留学生の会話(英語)を読み、答えます。英文内容の判定や語順整序などもあり、英語の知識を要する性格もあります。ただし、本命は複雑な国名判定パズルです。
次のような表が示されます。「国・地域別の訪日動機」です(下は抜粋)。ここに、(あ)(い)および(1)~(5)までの空欄があり、それぞれにどの国があてはまるのか、会話の情報から推理します。問題分析:「速さ・正確さ・粘り強さ」を求める英文読解パズル
難解ではありませんが、情報量が多く、複雑な作業をするために、混乱してミスが起こりやすい「パズル的難問」です。読解にあたって、各国の情報を知っているにこしたことはありませんが、ごく常識的な知識(マレーシアは赤道直下・多数の中国人がショッピング目的で訪日するなど)があれば、読解だけで解決します。
すでに記したように「速さ・正確さ・粘り強さ」を受験者に求めます。「特色演習」の出題
《資料1》 Ayumi is a high school student. *During her summer vacation, she went to a museum with her aunt. There she learned the history of *lights. She knew that people used *candles to light a room before *electric lights were made. But she couldn't think life without electric lights. When she went into one of the rooms in the museum, she was surprised that the room with just one candle in it was very dark. She said to her aunt, "It's so dark in this room. Did people use a lot of candles *a long time ago?" Her aunt said, "I don't know about it well, but I think they went to bed earlier than we do now, so they didn't have to use so many candles. They didn't use much *energy. How much energy do we use in our life?" Ayumi came back home. She thought, " A long time ago, people lived without electricity. But how about Japan now?" She began to study about energy.
Japan has to keep buying energy sources from foreign countries. Are other countries also buying energy *sources? Ayumi studied the *data in some books. Look at data *below. 【 A 】 have to get more than 90% of their energy sources from foreign countries. 【 B 】 have to buy only about 20% of their energy sources. 【 C 】are lucky countries. These countries don't have to buy energy sources.「OCED各国のエネルギーバランス2005より作成」Is there the best way to live without energy sources from foreign countries? In another book, she learned about new energy sources.
①*Solar energy generation and *wind energy generation are among them. Japan has already begun to use them and it is planning to use them more and more in the *future.
In her room, Ayumi thought about energy in her life. She was using a lot of energy, maybe more energy than she needed. She decided to start *saving energy. She remembered ②her aunt's question at the museum. She thought, " I alone can't do many things to save energy, but I remember that I have to do something to make a better future." -----語注と《資料2》は省略(1) 《資料1》の【 A 】【 B 】【 C 】のそれぞれには表にある国のうちの2カ国が入る。その国名を英語で答えなさい(順不同)。 (2) 省略
(3) 次のX, Y各グループの4つの英文は、《資料1》の下線部①に関して《資料2》に書かれた内容を英語に訳したものである。それぞれのエネルギーの説明として誤りのあるものを1つ選び、記号で答えなさい。
X) solar energy generation
ア They think that solar energy generation is more expected than any other *renewable generation.
イ Solar energy generation has a good chance to a lot of workers.
ウ Now Japan is the largest country in the *amount of solar energy generation.
エ Solar energy generation is more expensive than any other generation.
Y) wind energy generation
ア The cost of wind energy generation is the lowest in the cost of other renewable energy generations.
イ They think that they need to *support wind energy generation.
ウ They also think that the *institution of wind energy generation should be built on the sea.
エ We are able to build the institution of wind energy generation in the *National Park. -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ②
問2―(ウ) 回転する円の運動を考察する図形問題
2つ図のうちの右側の図のように、円A(半径1cm)が円B(半径2cm)に接しています。円Aが時計回りに円Bの円周上を滑らずに回転し、もとの位置に戻った場合、円A自体は何回転するかを答えます。なお、回転の数え方は、左側の図のようなルールに従います。
問題分析:運動する図形のパズルの典型
図形パズルで設問を難しくする要素は「立体」「移動」です。どちらも平面の固定化された図では正確な把握が難しいので、想像力を働かせながら手を動かして「書いて解く」必要があります。
なお、2017年はこの後に、4人の生徒の役割分担に関する情報を組み合わせて判断する「論理パズル」があります。図形パズル・論理パズルは、似た傾向が希望ケ丘高校や湘南高校の特色検査にも見られます。横須賀高校希望者にとって、特色検査としての過去問は1回分しかありません。共通の設計思想を持つ他の高校の特色検査問題は、参考になるはずです。「神奈川県特色検査模試」の出題
古くから用いられてきた製粉用具の1つに、石臼(いしうす)がある。石臼は、回転する石が隙間に入れられた粒をすりつぶす装置であり、1分間で石臼が何回転するかを、回転率で表す。
たとえば、回転率が10であれば、1分間で石臼が10回転することを表す。
石臼はいくつかの種類がある。いま手元に4つの石臼があって、右の表のような関係が成り立っている。
① 石臼Cが1分間で回転する回数を求めなさい。
② 1分間にひく(すりつぶして粉にする)ことができる小麦の量を求めようとするとき、石臼の回転長さのほかに、石臼の何がわかればよいか、答えなさい。また、このとき、1分間でひくことができる小麦の量の求め方を言葉の式で表しなさい。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ③
問3 歴史上の人名やできごとの前後関係を資料から推理して特定するパズル
新井白石の歴史書『読史余論』の部分現代語訳をもとに、平安時代の皇室と藤原氏の関係を表す系図や、古代から近世までの年表の記述などを判断します。
問題分析:歴史知識は「あったほうがよい」程度のパズル
中身を知らずに文章と系図だけを見ると、歴史が得意な生徒でも驚くことでしょう。中学校でまともに学ぶことのない人名が30以上並びます。中には「藤原高子(たかいこ)」「同明子(あきらけいこ)」など、ありふれた人名に見えて、ふつうには読めないものがふりがな無しで書かれてもいます。
実は、これらの多数の人名は知らなくても全く困らない情報です。たまたまその人名だったというだけで系図や年表が、エジプトのファラオ(王)やフランスの貴族に関するものでも本質は変わりません。「パズル」と定義する理由です。もちろん、歴史の知識があるほうが気分的に接しやすいのは事実ですが、小学生でも解答可能です。
高校日本史の内容をそのままパズルの素材に用いたことも、横須賀高校の考え方をよく表しています。以上の特徴は、特色検査の最後の問5で高校でも学ばない「流体力学(気体や液体のふるまいの学問)」のパズルが用いられていることとも共通しています。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
日本の稲作の代表的な方法を「田植え(苗を苗代で育てた後に田に植える)」とよぶ。他に「直播き(直接田に種をまく)」という方法がある。「直播き」が自然な方法である。なぜ日本では、わざわざ手間のかかる苗代(苗を育てるための特別な場所や箱)を作るのだろうか。それは、限られた狭い面積の田から、より確実に多くの米を収穫するためである(たとえばアメリカは広大な土地があるのであまり気にしないようである)。日本で稲作がはじまったころの栽培方法には不明な点が多い。それでも、『万葉集』の和歌には、次のように、稲作の様子をうかがわせるものがいくつもある。では、以下の和歌から、「田植え」と「直播き」が行われていたかどうかについて、どの時代までさかのぼっていえるか。もっとも適切な推測を、次のア~エの中から一つ選んで、記号で答えなさい。 ※以下、ふりがな省略
青柳 (楊)の 枝伐り下ろし 齊種蒔き ゆゆしき君に 恋ひわたるかも(作者不明)
大意 そろそろ米作りの時期。青柳の枝を伐り取って田に挿し、米の種をまいて、神様に豊作をお祈りいたします――その神様のように恐れ多く近づきがたい身分違いのあなた様に恋をしてしまって……(毎日想い続けています)。
言出しは 誰が言にあるか 小山田の 苗代水の 中淀にして(紀郎女)
大意 先に言い寄ったのは何処のどなただったかしら……山ぎわの田の苗代の水が中で淀んでいるようにちっとも来てくれないで……(もうっ!)。
ア 古墳時代までさかのぼって、田植えと直播きが両方行われていたと推測できる。
イ 飛鳥時代には、すでに田植えが中心で、直播きはほとんど行われていなかったと推測できる。
ウ 奈良時代までさかのぼって、田植えと直播きが両方行われていたと推測できる。
エ 平安時代には、直播きが中心で、田植えはほとんど行われていなかったと推測できる。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ④
問4(ア)「炭素年代測定法」を題材にした計算問題
考古学における、地質年代の特定方法をまとめたレポートを読んで、設問に答えます。(ア)は「炭素年代特定法(内容は、この後の「夏ゼミ」の出題例にあります)」を用いる計算。(イ)以降は、地学や歴史のごく常識的な知識を多少交えながら論理判断をするパズル的要素の強い特色検査の設題群です。
問題分析:「学問」の調査研究への具体的活用をイメージさせる教科横断的問題
年代特定のために、さまざまな手法を用いますが、そこでは地学・化学・数学・歴史・地理ほか、さまざまな分野の知見が動員されます。「発見」とは、学問のある分野(科目)だけで行われることは珍しいくらいで、関連諸分野の総合力を用いるものです。その具体例が示されている設題です。
夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
十数年前、ある美術史学者が「レオナルド・ダ・ビンチの作品の可能性が高い」と判断した作品が現れ、注目を集めた(図)。この作品がダ・ビンチ作かどうかは研究中で、論争が続いている。このように古い作品を鑑定するための第一歩は、年代測定である。この作品は動物の革に描かれており、「炭素年代測定法」という方法で、ある程度年代を特定できる。次にその考え方を説明する。
炭素には、「C14(炭素14)」という種類がある。C14は、時間がたつにつれて「C12」に変化するので、その量が減少する性質がある。半分の量になるまでの期間を半減期という。半減期をT年として、崩壊が始まって何年でいくら残存するかを考える。崩壊が始まったときの量をN0、経過年数をt年、t年後の残存量をNとする。T年経過したとき(つまり、t=Tのとき)に量が半分になるので、次の式で表すことができる。
さらにT年経過したとき(つまり、t=2Tのとき)の残存量は、
である。
ここからさらにT年経過したとき(つまり、t=3Tのとき)の残存量は、
となる。
「炭素年代測定法」は、現在大気中に存在するC14に対して、減少するC14がどのくらいの割合残っているかで、年代を判断する。この事例のような動物の体の一部なら、動物の死後はC14の量が減り始めるので、いつごろ絵に用いられたかがわかる。
以上のことをもとにして、C14のt年後の残存量Nを求める式を、N、N0、t、Tを用いて表しなさい。また、この作品について、「ダ・ビンチ作である可能性がある」と判断するには、残存するC14の量が現在のC14の量のおよそ何%であればよいかを求め、小数点以下を四捨五入して整数で答えなさい。ただし
とし、C14の半減期は、ここでは「5500年」として計算するものとする。
-
課題と対策
教科を問わないパズル的な作業型問題の練習と英文読解の速さ
どんな素材が出題されても冷静に解き進めることが求められます。また、多くの作業の処理力「速さ・正確さ・粘り強さ」も重要です。さらに、設問数が最多レベルなので、速さ・正確さの両立に加え、時間内にできる問題と不可能な問題を見極めることも、特色検査のある入試結果に大きく影響します。
英語は、単語・熟語集をていねいに参照していたらとても読みきれません。語彙力と、前後の文脈からある程度推理する読解力を同時に求められていると考えてください。たとえば、特色検査レベルの長文問題を「語注」を切り離して、辞書を使って読む練習も有効です(ただし、厳しめの制限時間を設けること)。
パズル的な作業型問題は、練習で「速さ・正確さ」を向上させることが可能です。神奈川県特色検査に限定せず、各教科の活用型の問題を他の地域からも入手して挑戦しましょう。また、このタイプの問題は、高校入試における特色検査だけでなく、南高校附属中やサイエンスフロンティア附属中などの公立中高一貫校の適性検査に多数出題されています。
2017年度の厚木高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 2/時間 50分/配点 200点/観点:様々な情報を的確に把握する力・論理的思考力・判断力・表現力
2017年度募集定員:358名 / 2017年度志願者数:447名 / 2017年度志願競争率:1.25倍
設問数激増・英語の読解と理数を特に掘り下げた拡大強化型学力検査
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問題の概要
英語読解+理科・数学の発展的問題
- ■特徴と変化
- 1全体的傾向 学力検査の拡大発展型
- □変化なし
- 2教科の傾向 国語読解を除く各教科・教科横断色は薄い
- □変化なし
- 3形式の特徴 1問以外全て選択問題
- □設問数1.7倍・選択は3倍に
英語+理科・数学の構造です。教科は絞り込まれています。問題Ⅱは、理科の素材ですが、数学的要素が強いので、その点は教科横断的です。
問題Ⅰ バイリンガルの子どもの2言語習得についての英文読解。内容的に拡大された学力検査的な問題群。
問題Ⅱ 人間の血液の成分の資料を題材にした、計算重視の理科・数学横断型問題群。
問題Ⅲ 気象に関する対話文と各種資料を読んで解く、原理の理解を重視した、理科の発展的問題群。
英語読解の問題Ⅰ、数理横断型の問題Ⅱ、理科の発展的な問題Ⅲと、はっきり区切られた構成です。 -
設問一覧 難易度平均[5.7](昨年度は6.1) ※表の詳しい見方は概要にあります
前半英語+後半理数~選択問題ばかりの構成
選択問題ばかり(県下最大の比率)です。選択式とはいえ、文字数・設問数ともに県下最大級で、時間的に厳しい状況になります。
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設問の特徴
新しい英語読解の姿・理数の応用問題の正しい姿を示す
厚木の特色検査の基本構造は、英語・数学・理科の学力検査に、発展的性格を与えたものです。その「発展的」部分を確認します。
- 問題Ⅰ
- 学力検査の英語は、昨年度まで、日常生活・学校生活に題材を限っていましたが、2017年、社会科学的内容の英文が登場しました。厚木高校の英語は、設問そのものは学力検査の延長にあるものです。ただし、文章が「バイリンガルの言語習得」というテーマで、内容の幅や深さが広がっています。全国的に見られる「新しい英語読解」のイメージに沿ったものです。
- 問題ⅡⅢ
- 理科・数学の応用問題というと、前者は説明記述、後者は「文章題」などがイメージされるでしょうが、多くはパターン化されており、真の応用とは言えません。「場面に応じて知を用いる」のが応用です。
厚木高校の問題ⅡとⅢは、理科的な題材をより正確に計算したり、より原理の理解が必要なように複雑化したりするなど、パターンどおりの解決が困難な性格を与えられています。応用問題の正しい姿と言うことも可能です。
また、詳しくは後述しますが、どの設問も「ていねいに解く」ことを求めている点も正統派的問題群という印象を与えます。 -
昨年との比較
設問数激増+選択問題激増の結果、難易度が上昇した
設問数が激増しました。結果、英作文は無くなりました。
2013年・13問 → 2014年・12問 → 2015年・11問、2016年・14問、設問数は昨年の14問から24問と激増しました。2017年が転換点であることが分かります。文字数は昨年度の約8,000字から12,300字に、英単語数は約1,100字から1,900字(福島県、埼玉県、京都府などの学力検査の英単語総数とほぼ同じです)に激増しています。いずれも神奈川県下の特色検査の中でも最高レベルです。
一方、1問を除いて全て選択型になり、解答すること自体はやや楽になりました。ただし、英語は文章をすみずみまで読む必要があり、理数もきちんと計算と判断をしなくてはならないなど、手間のかかる面があるので、設問単位での難易度はあまり変わりません。
以上の結果、厚木高校の特色検査では、設問数増加がストレートに難易度を上昇させました。
なお、英語の内容拡張型学力検査+理数の応用問題という基本的な性格は変わっていません。 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ①
問題Ⅰ 言語習得をテーマにした英文読解問題
対話文の読解です。テーマは「バイリンガルの言語習得」です。
冒頭で、カナダからの留学生ティムから「二か国語を話せない人を見かけたら、その人はバイリンガルの可能性がある」という常識を裏切る発言があります。これに関する日本人ミカの質問に続いてティムは「聞く・話す・読む・書く」以外の第5のスキルに言及します。それは「考える」だと言うのです。ここから言語習得に関する実験とその結果が説明されます。中には「研究者が子供に対して、牛に《犬》と名前を付けるのと犬に《牛》と名前を付けるのと、どちらが正しいと思うかを質問する」実験の結果など、興味深い記述が続きます。終盤で、バイリンガルの言語能力上の優位性が説明されます。
全体に、一般常識的な感覚を裏切る内容が多く、読み応えがあります。読むことが様々な発見の契機になるという、興味深い文章です。
設問はこの対話文の内容を土台に、多様に展開します。問題分析:英文内容の拡大に積極的-選択でも安易な解答を拒む
近年の入試における、英語読解問題の「2つの新傾向」を説明します。
第一は「英文内容の拡大」です。たとえば神奈川県の学力検査では、昨年まで「日常生活・学校生活」などの素材ばかりが長文・対話文に用いられていました。今年「諸外国人の日本訪問+ピクトグラム」という、社会科学的要素を含む英語長文が使用されました。「雨温図の読み取り」という、あと一歩で社会との教科横断になる設問もありました。厚木は、年によって多少変わりますが、英文の内容拡大に積極的です。今年は前述のとおりです。
第二は「英語を手段として用いる」ことです。英語を訳したら計算やパズルが出現した……学力検査の難問はこのパターンが多いのです。厚木の特色検査は、そこまで極端ではありませんが、表を使った組み合わせの判定など、ある程度パズル的な性格も備えています。
次に、大量の「選択問題」を用いる厚木の特徴を記します。
選択式は、最悪「書くだけ」で一定以上の得点の可能性があるので、全く得点できない可能性は低くなります。そして、選択肢が選びやすいと高得点化します。厚木高校受験者のようなハイレベル集団では差がつきにくくなります。実際の検査は、複数の解答が完全に合致しないといけない(完答)などの方法で、「だいたいこんなところかな」という安易な解答を拒否するように設計されています。
もう一点加えます。神奈川県高校入試における特色検査の英語読解は、「設問を導くための素材」の場合と、「英語読解の力そのものを試すための題材」に二分できます。今年、学力検査の英語にあった「駐車場の料金の試算」などは前者の典型ですし、横浜翠嵐、横須賀、湘南、小田原などの特色検査でも、同様の性格の英語を出題します。厚木高校はその点、オーソドックスな英語と言えます。2017年の検査問題の難しさは、ほとんどの設問が、解く過程で対話文をていねいに参照しないといけないように設計されています(小田原高校の英語はこの点が対照的で、あまり文章が重要ではありません)。
以上のように、たとえ選択式でも十分複雑であるのが厚木高校の英語の性格です(同じことが理系にも言えます)。「神奈川県特色検査模試」の出題
I began my study of Japanese at *university in Canada. *Little did I realize how many *linguistic difficulties were waiting to *ambush me!
The first challenge my classmates and I *faced was how to *memorize Japanese *conversational expressions. They were all so long! For “Hi!” we had to learn “Konnichi wa.” “Thanks!” was “Arigato gozaimashita.” “Take care!” was “Oki o tsukete kudasai.” So many *syllables!
To help us memorize these kinds of *phrases, we created English *sentences that sounded *similar to the original Japanese. To remember the Japanese numbers 1, 2 (ichi, ni), we used the English phrase “*itchy *knee.” To memorize “Itadakimasu” (Let’s eat!), we used “[ ]” It sounded *pretty close! To learn “Do itashimashite” (You’re welcome), we used “Don’t touch my *moustache.” It was almost the same!
Speaking Japanese was hard. But writing was harder! We spent the first part of our Japanese course learning the hiragana *alphabet. It took forever to memorize the lines and *curves of each *letter. When we *had finally mastered hiragana, our teacher said, “*Well done! Now, here’s the next alphabet you have to learn ― katakana.” “Another alphabet?” we *groaned. “Isn’t one enough?”
Two weeks later, we’d mastered katakana and were ready to relax. “Not yet!” said the teacher. “Now you have to learn kanji. It has 2,000 *characters.” 2,000 characters! We couldn’t believe it. Was he trying to *torture us?
After studying Japanese in Canada for a year, I was ready to fly to Kobe and *try out my new language *skills in Japan. I *had been a conscientious student and *had worked hard to learn *proper Japanese. We’d only been taught the *polite “desu/masu” *forms, but I was *confident that I’d do OK.
As a *newcomer to Kansai, I asked a lot of questions. For many questions, I kept getting the word shiran as an answer. “If people use shiran *so often, it must be an important word,” I thought. *However, when I looked for shiran in the dictionary, it wasn’t *listed. Strange!
As a new English teacher in Kobe, I heard many *rumors. When I checked to *see if they were true, my Japanese students *cried out “ciao, ciao.” “Why are they speaking *Italian?” I asked myself. It was all very *odd!
Finally, I *managed to find a Japanese friend who *solved these two *mysteries for me. “The *colloquial Japanese that people speak here is different from the textbook Japanese that you learned in Canada,” he *explained. “Shiran is a *contraction of shirimasen. It means ‘I don’t know.’ Ciao is a contraction of chigaimasu, which means ‘That’s wrong.’ ”
After a year in Kobe, I finally began to understand what people around me were saying. But I still felt *strongly that people should only use words listed in the dictionary and should *avoid using Italian when speaking Japanese! (語注省略)
※内容は、英語圏から来た人物が日本語の習得で経験した苦労を語るものである。(1)~(3)省略
(4) 英文の内容について正しく述べたものを次のア~カの中から二つ選び、記号で答えなさい。
ア The *author learned Japanese phrases by making English sentences that sounded similar to the original one.
イ The author felt that hiragana alphabet is easier than katakana alphabet because katakana has no curves.
ウ When the author’s classmates told him to learn kanji, he couldn't believe it.
エ The author who learned the polite "desu / masu" forms was confident that he would do alright before visiting Japan.
オ When the author lived in Kobe, he often talked with Italian students, and they cried out "ciao, ciao".
カ The author felt Japanese people around him did not use words listed in the dictionary so he thought he should use "shiran" and "ciao". -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ②
問題Ⅱ 理科のデータをもとにした、主に計算の問題群
健康なヒトの血液のデータをもとに、さまざまな計算問題と、論理判断、慣用句の設問が並びます。
問題分析:理科の形を装った数学の設題-選択でも安易な解答を拒む
「人の血液に関するデータ」という理科の素材を用いていますが、中身はほぼ数学と情報処理パズルです。理科の知識はほとんど用いません。典型的な活用型問題です。
与えられる表や文章、グラフは、隅から隅まで読み取らないと問題が解けません。学校によっては「部分読み」で解決できるという、要領の良さを重視することがありますが、厚木高校の特色検査は(英語も含め)ていねいに確認して解き進めることを求めます。選択問題増加に対する学校の意思表示と言えるでしょう。
例えば、問13の問題は全身の血液の量についての項目をチェックしますし、表1にある血液の比重と血糖値の項目は、問14で必要となります。
問15について、具体的に記します。読み飛ばしても構いません。ここには長い説明文がついていますが、すべてきちんと読まないと、続く2つの設問が解けません。例えば[A]では、文章中の「風邪薬の有効成分も人体は有害物質と認識して解毒」という文章に注目します。その上で、肝臓での解毒量が有害物質のx%、吸収された風邪薬の有効成分がymgというところから、分解されない有効成分の割合は (100-x)%です。[B]はさらに、表1の肝臓へ流出する血液の量の項目を利用して立式します。
グラフを読み取る問いは、その上にある6つの条件を合わせて「効果的な薬の服用方法」という意外な設問に向かいます。解答の選択肢は、1つずつしらみつぶしに確認しないと解答できないので、手間がかかります。
全体に安易な解答を拒むように選択肢はよく練られています。選択式だから簡単になった、という図式は成り立ちません。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
体重70kgの成人男子は主に、以下に記すような元素で構成されている。下のデータをもとに、人体がおよそ何個の原子からできているか計算して答えなさい。なお、原子を1mol集めたときの原子の数は6×1023個であるとして、答えはa×10bの形で書くこと。ただし、数値 a は小数点以下第1位で四捨五入し、1桁の整数で書きなさい。
70kgの人体の構成
酸素 45.5kg 炭素 12.6kg 水素 7.0kg 窒素 2.1kg カルシウム 1.0kg リン 0.62kg
1molあたりの質量
酸素 16g 炭素 12g 水素 1g 窒素 14g カルシウム 40g リン 31g -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ③
問題Ⅲ 問21 気圧配置の図を見て、季節など判断する問題
日本付近の気圧配置を示す図が6つあります。この中から、「夏の終わりから秋にかけて・台風が九州や本州に沿って進む」ころの図を選びます。
問題分析:原理の理解+ていねいな読解を求める選択問題
これまでの設題と同じく、何となく選ぶことは不可能です。また、図は、入試によくある「典型的なもの」ではありません。だから、気圧配置の意味や性格を正しく理解した上で、各図をていねいに読み込まないと正解は不可能です。2017年の厚木らしさがここにもはっきり刻印されています。
「特色演習」の出題
化石燃料に依存しない新エネルギーの開発は、特に先進諸国に課せられた重要な課題である。決定的な手法・解答は現在のところ見つかっていないが、西ヨーロッパ諸国では、風力発電をその重要な柱の一つとしている。わが国においても風力発電の開発は進められているが、西ヨーロッパに比べて不利な点が多く、思うように進んでいないのが現実である。
まず、風力発電では、大型の発電機が騒音や振動などの害を近隣の住民にもたらすことがある。この点で日本は不利である。山地の割合が高く、発電機を建造できる地域の多くが人口密集地帯になってしまうからである。もう一つ、西ヨーロッパには適してもわが国に不向きな理由は自然環境によるものである。
高層建造物である風力発電機は、わが国において西ヨーロッパのものに比べ、地震対策のためにより高価なものになってしまう。では、もう一つ、気象条件からも、わが国における風力発電機の建造と利用が、技術上の困難をともなう理由を説明しなさい。なお、右の天気図を参考にし、地理または気象の用語を用いて説明すること。 -
課題と対策
幅広い応用問題に積極的に挑戦する
英語読解力と数学の計算力が特に重要です。
英語の対策は、長文読解の幅を広げることです。すみずみまで読む必要があるので、語彙力と読む速度が試されています。自然科学や社会科学系の文章にも、他の地域の公立高校入試問題を使ってチャレンジすべきです。
理数については、応用題の練習の幅を広げることと、計算力を高めることです。他の学校の特色検査も含め、慣れていない応用問題に積極的に挑戦してください。そのときのポイントは「正確に書いて解く」ということです。選択ばかりの厚木高校ですが、すでに書いたように、選択肢に安易に頼る学習は逆効果です。正しく解答を導き、その上で選択肢から選ぶという、正統派的練習が重要です。また、より多様なパターンの応用題を解き、同時に「これをきちんと計算したらどんな数値になるだろう」「これを記号化して整理してみよう」「このことを英語で質問したらどうなるだろう」といったことも意識しましょう。
教科の問題ではありますが、既存の問題パターンにしばられない学力を鍛えることが、厚木高校合格の、そして何より、実践的な学力向上の有効な手段です。
2017年度の平塚江南高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 2/時間 50分/配点 200点/観点:表現力・理解力・情報活用能力・論理的思考力
2017年度募集定員:318名 / 2017年度志願者数:375名 / 2017年度志願競争率:1.18倍
コンパクトで幅広い設問で、5教科をまんべんなく問う―基本重視の教科横断型問題群による特色検査
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問題の概要
ベーシックな「教科横断型」の特色検査:前半文系・後半理系
- 平塚江南高校 特色検査
特徴と変化 - 1全体的傾向 多様性重視・コンパクトな設問でバラエティ豊か
- □変化なし
- 2教科の傾向 5教科+論理・多様な出題が一貫している
- □変化なし
- 3形式の特徴 選択が過半数だが、説明記述もある
- □論述が無くなる
- 課題1
- 文系の教科横断型です。「俳句に見る日本人の美意識」をテーマにした、日本語の評論と英語対話文の読解が続きます。
- 課題2
- エネルギー問題をテーマにした、理数横断的な設問群です。近年、高校入試の数学で増加傾向にある「損得の具体的計算」などを含む多様な出題で、英文読解も加わっています。
知識を求める問いもありますが、全体に、設問に与えられた条件を確実におさえ、正確に解答することが、平塚江南の特色検査においては特に重要です。設問数は多めですが、コンパクトな設問が多いので、速度よりも正確さを重視しています。
- 平塚江南高校 特色検査
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設問一覧 難易度平均[5.3](昨年度は5.9) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
「思考プロセス重視」―設問数が多く、変化に富むため最後まで気が抜けない特色検査
上表でわかるように、平塚江南高校の2017年度の特色検査において、説明記述が数問ある以外は、全体に「読解プロセス」「解答プロセス」はシンプルなので「思考重視」と言えます。
時間配分が重要になります。前半から後半に向かって難しくなるような性格はないので、全体的配置をざっと確認し、勝負ポイントを見極めてから、とりかかる順番と時間配分を考えるとよいでしょう。 -
設問の特徴
基本的な内容を、自由自在に使いこなすことが課題
教科横断型の特色検査というと、それだけで難しそうな印象を与えますが、平塚江南高校は、あえて基礎基本中心に出題しています。一つ一つの問題は単独で見ると意外に解きやすいものが多いのです。ただし、5教科の学力検査のように、設問を読めば「ああ、この内容についての問題か」と分かるようなパターン化された性格はありません。学んだことを、設問の求めに応じて「頭の格納庫」から引き出し、自由自在に使いこなすことが課題です。
説明問題も「芭蕉の俳句の英訳で、カエルを複数ではなく単数にするべき理由」など、ひとひねりあります。ただし、パターン化されていないというだけで、特別に難解ではなく、よく文章を読んで柔軟に考えられれば解答可能です。同じく俳句の設問で、芭蕉の句の改作「うるささや 岩にしみ入る 蝉の声」のようなものを用いる独特のユーモアは、平塚江南高校の特色検査ならではのものです。「今年はどんなネタかな」と、楽しめる特色検査です。 -
昨年との比較
論述無くなる+基本と多様性の重視は変わらず+文理のバランス回復
多数の設問、基本重視の変化に富んだ設問群という基本は変わっていません。難易度も大きくは変わっていませんが、昨年まであった「論述」問題が、2017年度特色検査では無くなりました。この結果、設問は全体にコンパクトになり、多少ですが解きやすくなりました。「コンパクト化」という意味では、設問単位で見た場合の「教科横断」の度合いもやや小さくなりました。「課題(大設問)」単位ではやはり様々な教科の問題を混合していますが、個々の設問は特別に複雑でも難解でもありません。
なお、2016年度特色検査では文系重視に傾きましたが、2017年は理系の比重が再び増し、バランスが取られました。 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ①
課題1―問8~問10 俳句から広がる英語・国語・社会・数学の教科横断型問題
課題1は「日本の美」をめぐる評論から俳句についての部分を抜き出し、そこから設問が展開します。地理、読解、歴史、英語、論理判断、比例の判断……のように多様な設問が並びます。
問8から俳句が題材となり、「古池や蛙飛び込む水の音」の英訳に際し「蛙(flog)を単数にするか複数にするかについて、単数がよい理由を20~30字で説明します。問9は読解による適語補充。問10は2人の生徒が英語による俳句作成をめぐって行った会話文(英語)から始まります。英文読解に、俳句の解釈も盛り込んだ、教科横断型問題の特色検査です。問題分析:典型的な教科横断型―ものごとをめぐる多面的な知識・柔軟な思考がテーマ
設問ごとに問いの内容が目まぐるしく変化する典型的な教科横断型の特色検査です。「美しいと感じること」一つとっても、数学的な比例や対称があり、また、「蛙が水に飛び込んだ音」に対する感じかたが、民族や個人(さらには時代)によって異なることが示されます。5教科全ての要素が盛り込まれています。
「教科横断」というと、異なるものをくっつけて組み立てるような印象をもつかもしれませんが、本来は反対です。あるものごとを知るためには極めて多様な接し方や考え方があるのです。その「接し方・考え方」を分かりやすく区別したのが「教科・科目・分野」なのです。ですから、「教科横断」というのは、ものごとを知るための常識的な方法に過ぎません。平塚江南高校の特色検査は、そのことを実感させてくれる問題です。「パスポートテキスト・特トレ」の出題
次の俳句は、与謝蕪村の作品で、摩耶山(兵庫県)あたりで詠んだものとされる。この句について、あとの問いに答えなさい。
菜の花や 月は東に 日は西に
(1) この句で詠まれている月の形はどのようなものだったと推測できるか。次の中から選んで記号で答えなさい。なお、灰色の部分は本来、見えない「影」にあたる。(2) 次の英文は、この句を訳したものである。俳句の「五・七・五」の形式を尊重して、文中にカンマもピリオドもつけずに空白を設けている。では、この英文中の【 】にあてはまる適切な単語を句の意味とあわせて想像した上で、次の中から選んで、記号で答えなさい。(語注略)
The sun is in the west the moon is in the east canola blossoms in the 【 】
ア middle イ earth ウ right エ north
(3) この句が詠まれたであろう日の太陽の南中高度にもっとも近いものを、次の中から選んで記号で答えなさい。
ア およそ75度 イ およそ55度 ウ およそ35度 エ およそ15度 -
問題・分析・湘ゼミの対策例 ②
課題2―問1~問4 エネルギーに関するデータ読み取りと計算
「日本の発電量の推移(1962~2012年)」と「1世帯あたりのエネルギー消費量と内訳の推移(1965・1973・2014年)」の2つのグラフを読みます。
この内容に沿って、データ読み取りと計算問題が続きます。問題分析:正確で速い計算を求める「実用的・活用的」理数問題
数学の応用題は、定期テストや学力検査では抽象化・パターン化された問いが多用されます。食塩水も電車も、あまりリアリティを感じさせません。
一方、この設問は実際の電力消費を計算します。「活用型問題」という言葉が、特色検査をはじめとした今後の入試の主流になると言われます。これは、学習内容を現実のできごとに直結するよう活用する問いという意味です。計算問題のために用意された特殊なデータではなく、現実のデータを実際に計算して確認するわけです。また、近年、その計算の結果「どちらがどのくらい得である」といった実にリアルな解を得る設問が全国的に増えています。神奈川県公立高校入試の5教科の学力検査では、英語によく見られます(2017年は駐車場の料金計算でした)。
この設問は特別難解ではありません。しかし、パターン化されていないので、何を目標に何をどう計算するかを正確につかんで進めないと途中で混乱したり長い計算過程でミスしたりしてしまいます。
読解力・立式力・計算力を総合的に求める「実用的・活用的」問題です。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
下の資料は、石炭火力発電、石油火力発電、天然ガス火力発電(表ではガス火力)、水力発電、原子力発電、太陽光発電の発電所の耐用(使用可能)年数、建設費、燃料費および維持管理費の一覧である。これを見て、次の問いに答えなさい。なお、数値は比較しやすいように「1万世帯」を基準に、現実の数値から加工した上で計算し、そろえてある。
同じ年に資料のような規模の6種類の発電所を建設し、100年間発電し続けたとする。資料のデータにしたがって試算すると、総費用がもっとも少なくてすむのはどの発電方法か。以下の条件にしたがって判断し、その発電所の種類を答えなさい。
条件1 初めの年に建設する費用も含めて計算し、発電所は耐用年数に達したら停止させ、新たに建設するものとする(たとえば、耐用年数70年の発電所ならば、初めの年と70年後の2回建設することになる)。
条件2 燃料資源の枯渇や物価の変動、技術革新などは考慮に入れず、1年は365日で計算することとする。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
次の資料1および資料2は、新しいエネルギー源の一つとして有望視されている「燃料電池」に関するものである。石油1Lを燃焼させるときの化学エネルギーが、9,000kcalであるとする。火力発電において、石油1Lから家庭で使用できる電気エネルギーをつくる際に、発電する過程で失われるエネルギーは何kcalになると考えられるか。ただし、送電する過程で失われる電気エネルギーは、発電された電気エネルギーの12.5%であるとする。
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問題・分析・湘ゼミの対策例 ③
課題2―問6 発電におけるエネルギーの変換過程を答える問題
電気エネルギーを得るための方法が説明されます。火力発電、水力発電、太陽光発電のしくみの説明文があります。これらを読み、「熱」「運動」「位置」「光」の各エネルギーがどのように変換されて電気エネルギーになるのかを解答します。
問題分析:よく知っている用語の意味と原理の理解を求める
上記の語句は誰でも知っています。ただし、そのはたらきの意味や原理を正しく理解しているか、説明や再現ができるかというと話は別です。平塚江南の教科横断型問題の特色検査には、このような「知っているが改めて問われると……」というものが少なくありません。
知識が、単に語を覚えただけなのか、しっかり理解されている状態になっているのかを問おうという意図が感じられます。「特色演習」の出題
電力エネルギーに関する次の各問に答えなさい。
(1) 発電所では、原材料がもっている様々な形のエネルギーが最終的には電気エネルギーに変換されて送出される。「再生可能エネルギー」と呼ばれる発電方法の中から1つを選び、発電所でどのようなエネルギーの変換が起こっているか、水力発電について記述した次の例にならって説明せよ。
例)水力発電 水の落下による運動エネルギーが、タービン(水車)の運動エネルギーとなったのち、発電機で電気エネルギーとなる。
(2) 受光面積が2.5㎡の太陽電池により得られた電力を測定したところ、消費電力が60Wである蛍光灯10本をちょうど点灯させることができる量であった。 このときの地表面に到達する太場からの光エネルギーが1㎡あたり毎秒1.4×103Jであったとすると、この太陽電池で光エネルギーが電気エネルギーに変換される効率は何%か。なお、解答は整数で書きなさい。 -
課題と対策
自由な思考の習慣+基本重視の練習を
教科横断型の特色検査ですから、あるものごとを学んだとき、教科の枠にとらわれずに思考を広げてゆく習慣をつけることです。たとえば課題1では、計算を除く英語・国語・数学・社会がどう結びつくかのサンプルが示されています。問われているのはあくまでも教科の具体的な知識ですが、相互に関連付けられてすぐに引き出せる「スタンバイ」状態になっていることが大切です。
たとえば、社会で気候が登場したら、理科の気圧配置や飽和水蒸気量を連想し、同時に示されたデータを計算し、さらにその気候がその土地の文化に与えた影響を想像する……このような思考ができるということです。
細かい知識の量よりも、理解の質が重要ということなのです。特に有効な対策は、学んだことを誰かに説明することです。これ以上有効な内容理解の方法は無いと言ってもよいくらいです。
次に、設問で聞かれている内容と条件、解答の根拠となるものに目印をつけるといった、問題を解くための基本動作を徹底することが重要です。もちろん、ていねいな作業を忘れてはいけません。
では、特色検査対策の2つの柱をまとめます。
1 重要事項について「なぜ?」「どのように?」といったことを考える習慣を身につける
2 設問を正しく読んで、なすべきことを明らかにする習慣を身につける
スムーズな作業力も欠かせません。特色検査対策の練習において、制限時間を設けることを強くすすめます。
以上のことを心がけながら「今度はどんな問題でくるかな」のように楽しみにできれば、平塚江南高校の合格はぐっと近くなります。
2017年度の小田原高校の実際の特色検査を分析し、次年度への対策の指針をまとめました。
A : B : C : D比 3 : 5 : 2 : 2/時間 50分/配点 200点/観点:論理的思考力・表現構成力
2017年度募集定員:318名 / 2017年度志願者数:367名 / 2017年度志願競争率:1.15倍
英作文・作図・論述までカバーする、神奈川県内の特色検査で最も幅広い教科横断型問題群
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問題の概要
一つの話題から多様な出題―教科横断型の典型
- 小田原高校 特色検査
特徴と変化 - 1全体的傾向 バランスの取れた学力検査の発展型+教科横断型
- □変化なし
- 2教科の傾向 各教科がバランス・古文読解を出題
- □変化なし
- 3形式の特徴 各種形式がバランス(選択から論述まで)
- □設問数やや減
- 問1
- ロボットを題材にした設問群。読解や作図などの多様さが特徴です。
- 問2
- 「健康」がテーマです。英文・古文・データまで含む多様な読解。英作文も含んだ論述(意見を述べる)があります。
- 問3
- 感染症に関する問題群。推理を重視した設問がここに集中しています。
小田原高校の特色検査では、一つの話題をとりあげ、そこから各教科の問題が発展的に生まれる、流れのあるスタイルをとっています。設問一つ一つはそれほど複雑ではありませんが、変化に富んでおり、次に何が問われるのか予断を許しません。内容は古文や保健などにも関連しています。多様な教科横断型問題の典型です。
また、多くの高校が特色検査において選択問題の割合を拡大している中、小田原高校では、作図や説明・論述などの「書かせる」問題を多用しています。形式的にも神奈川県下随一の多様さです。 - 小田原高校 特色検査
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設問一覧 難易度平均[6.6](昨年度は6.8) ※表の詳しい見方は概要のページにあります
英作文や作図、論述まで包括する最も幅広い出題
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設問の特徴
幅広い「教科横断型」であり、リアリティを備えた「活用型」でもある
小田原高校では、神奈川県下でほぼ唯一「論述=自分の意見を述べる」問題を出題します(提案そのものを核にした横浜緑ケ丘、横浜サイエンスフロンティア高校の特色検査は除く)。また、複数の作図、古文の併用、要約なども含め、用いられる内容・分野の幅広さ、設問形式の多様さは神奈川県下一です。ペーパーテスト型特色検査の一般的出題パターンをほとんどカバーしています。
構成は、あるテーマを設けて、そこから教科横断的に思考・判断や計算、表現などを展開する工夫をこらしたものです。知識を現実のできごとにあてはめる、リアリティある活用的問題が多いのも特徴です。「教科横断型」の構成と「活用型」の思考がどのようなものか、分かりやすく示しています。
設問を個々に見ると前ページの表のように、単独の教科内容で解決できる、学力検査の発展型の設問が過半数です。
設問数も情報量も多いので、スピーディに解き進めないと時間的に厳しくなります。 -
昨年との比較
設問数は多少減だが大きな変化はない
個々の設問の難易度に大きな変化はありませんが、小田原高校の2017年度特色検査では設問数が少し減り、個々の設問もややコンパクトになり、多少解きやすくなりました。
傾向と言えるかどうか微妙なところですが、「標本調査」が昨年に続いて出題されたことも書き加えておきます。
今年は、いくつもの高校が説明記述や論述を大きく減らし、選択中心に方針変更しました。その中、論述も含めて「書かせる」姿勢を変えていないのは、小田原高校の強い意志を感じさせます。 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ①
問1―Ⅱ テーマはロボット・運動を作図して数学的に処理する
2つの支点をもつ産業用のアームロボットの模型についての説明があります。図1のABとBCはそれぞれ長さ2[m]。図2のように、ABはAを支点にして左に90°まで回転可能。BCはBを支点にしてやはり左に90°まで回転可能です。以上に基づいて図1の直線ABCを、Aを原点に固定して座標平面上に配置したとします。
(1)点Bをy軸上まで動かして固定した後、Cが描く軌道を図示します。
(2)座標平面上でこのアームロボット(ABC)を自由に動かしたとき、Cが届く範囲を図示します。問題分析:数学の拡大・活用の具体例を示す
Ⅱのポイントは、支点Aと2m先の支点Bの固定のしかたです。きちんと考えずに進めると、混乱して何もできなくなってしまいます。
ABとBCは、左(反時計回り)に90°だけ回転します。Bを指定の位置に固定する(1)では、Cの軌道は比較的簡単に「長さ2m、中心角90°のおうぎ形の弧」であることが分かります。(2)では、まずBを固定して、Aを支点に回転させることを考えます。Bを折り曲げずに「長さ4m、中心角90°のおうぎ形の弧」を描いたあと、y軸にBを固定して「長さ2m、中心角90°のおうぎ形の弧」を描きます。次に、Aを固定してBを支点に回転させることを考えます。「長さ2m、中心角90°のおうぎ形の弧」を描いたあと、その形のまま「長さ√2m、中心角90°のおうぎ形の弧」を描きます。4つの弧がつながるので、この範囲が、Cの届く範囲となります。
固定するところを動かすところ、これをはっきりさせて考えることで、解答に近づきます。手を動かして作図しましょう。
この設問は、数学の活用型問題の一例です。座標平面は、これまで関数を表す道具および、派生する図形的問題の素材くらいに認識していることが多いのではないでしょうか。しかし、この問題のように物体の運動を表示し、数学的に正確につかむための手段としても用いられます。高校では物理の重要なテーマとなります。
中学で学んだ数学(座標平面)を拡大・活用する方法を教えてくれる興味深い問題です。夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
文章 安元の大火に関する資料
去ぬる安元三年 四月二十八日かとよ。風烈しく吹きて、静かならざりし夜、戌の時ばかり、都の辰巳より、火出で来りて、戌亥に至る。はてには朱雀門・大極殿・大学寮・民部省まで移りて、一夜が中に、塵灰となりにき。
火元は、五条東京極とかや。舞人を宿せる仮屋より、出で来たりけるとなん。吹き迷ふ風に、とかく移り行くほどに、扇をひろげたるが如く末広(すえひろ)になりぬ。 語注・ふりがな省略
資料1 平安京の略地図(右上)
※平安京の「大路」ごとの間隔はおよそ500mとする。また、大内裏(だいだいり)(朝廷の役所および天皇の宮殿のある区画)の南北は、大路2.5区画分の長さとする。朱雀大路は道幅が約80メートルあるが、区画の面積などを計算する場合は、「線」としてあつかってよい。他の大路なども同じとする。
資料2 方位および時刻の「十二支」模式図(右下)
※現代の八方位において図の二つの文字の中間にあたる場合、時計回りの順に「うしとら」のように呼ぶ。時刻は「子」という場合、深夜0時の前後約2時間を「子(ね)の刻(こく)」と呼んだ。ただし、当時の時刻は、季節によって伸び縮みがあるので、現代の「何時間」とは厳密には異なるが、ここでは便宜上同じものとしてあつかう。
「安元の大火」は、平安京を広範囲に焼いた。火は火元から風にあおられて「おうぎ型」状に広がっていったと文章にある。この火事の進み方を、分かりやすくするために次のように整理する。火は出火地点から風向きにそって二条大路と東大宮大路の交差点まで進んでしずまった。ただし、そこからさらに大内裏の一部に燃え移り、大内裏の半分ほどが燃えた。では、以上のようにこの火災で焼亡した領域を、中心角45度のおうぎ形部分と大内裏の半分とすると、その面積は何㎢となるか。出火地点を交差点とし、円周率は3.1として計算し、小数第2位を四捨五入して解答を書きなさい。 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ②
問2(2) 英文・古文も含む読解とデータ読み取りの複合問題
タカシとウィリアムの会話(英語)が示されます。話題は健康について。ただし、途中に「It's not my cup of tea」という慣用表現についての誤解があります。(1)は誤解の理由説明。(2)は1週間のスポーツ時間と虚血性心疾患による死亡の関係のグラフ読み取り。(3)は食生活で気をつけていることに関するグラフ読み取りと適語補充(英語)。(4)は仕事と健康に関する異なる意見のどちらかを支持する理由の小論述。(5)健康に大切だと思うことを15~30語で書く英作文。(6)は古文『養生訓』と翻訳文『幸福論』の比較要約。テーマ「健康」から幅広く展開される、典型的な教科横断型問題で構成される特色検査です。
問題分析:英語力も古文読解も情報処理も含めた読解力を「手段として活用する」
問1が数学を中心にした活用だったのに対し、こちらはデータ読み取りを含めた主に文系的な活用型・教科横断型問題群です。英語から古文、グラフまで幅広い読解力が求められますが、もう一つ重要な特徴は、以上の読解が、同時に「論述=意見を述べること」の土台としても用いられていることです。
学習して得たさまざまな分野の読解力は、それを身につけること自体が目的なのではなく、考え・判断し・意見を述べるための「手段」として活用されるべきものなのである、という主張が盛り込まれているように感じられます。「神奈川県特色検査模試」の出題
資料 クリミア戦争の死傷者に関するフローレンス・ナイチンゲールの報告書の一部(語注等省略)
(1) 資料のグラフの表現方法の長所をかんたんに説明しなさい。 (2)省略
(3) 資料から、感染症による死者数が最も大きい月《 ① 》および、ナイチンゲールらによる病院の清潔化活動が、明白な効果を発揮しはじめた月《 ② 》の組み合わせとして最も適切なものを、次のア~エの中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア ①1855年1月 ②1855年7月 イ ①1855年1月 ②1855年4月
ウ ①1854年12月 ②1855年4月 エ ①1854年12月 ②1855年7月 -
代表的な問題と湘ゼミの対策例 ③
感染者数に関する問題-標本調査と推理
資料を見て、(1)感染率の高い地区を求め、(2)都市Aの住宅地全体での感染者密度を推測、(3)感染者密度をより正確に推測するための調査方法を選択、(4)感染症が人口密度の低いある村で間もなく終息した理由を推測します。
問題分析:計算・推理などの活用型問題
小田原高校の特色検査らしい「リアリティのある活用型問題」です。数学的な検証・推測などの手段が、感染症のような深刻な局面でどのように活用されるかをモデル的に示しています。広く深い「学力」を身につけることが、事態を正確に判断し、原因と対策を考えることにつながることがイメージできます。
夏の勉強合宿「夏ゼミ」の出題
遺跡の土を分析し、「イネ」の存在を確かめるために、イネ科植物の化石「プラント・オパール」を検出する「植物の種類や量を知る方法が「プラント・オパール分析法」である。プラント・オパールは通常、土の数パーセントしかなく、ごく小さいため、試料の土に含まれるプラント・オパールをすべて分離して数えることは難しい。土の粒子にまぎれて見失ってしまう。そこで、次のような方法を用いる。
まず、大きさや*比重がプラント・オパールにごく近い人工の「ガラスビーズ」を用意し、試料に混ぜる。次に、試料を①水に混ぜて沈殿させ、粒子の大きさ・比重の違いを利用して分離する。そして、顕微鏡で観察し、プラント・オパールとガラスビーズの数を数える。もちろん、かなりの数のプラント・オパールを見失う。しかし、ガラスビーズもほぼ同じ割合で逃しているはずである。②試料に含まれるガラスビーズの数は分かっているので、プラント・オパールの数を推定できるのである。
このような研究の積み重ねで、古代の農業や人口の状況などが次第に明らかになりつつある。プラント・オパール分析法によって、弥生時代初期(2千数百年前)にはじまったとされた稲作が、縄文時代前期(約6000年前)まで一気にさかのぼる可能性が指摘されている。
(1) 下線部____①の方法を用いて泥・小石・砂を分離した場合、どのように分離されるか。理由も書いて40字以上50字以内で説明しなさい。
(2) 下線部____②の詳しい手順は次のとおりである。分析したい試料にa個の人工ガラスビーズを混ぜる。この試料を分離した後、プラント・オパールとガラスビーズの個数を数えたところ、プラント・オパールがb個とガラスビーズがc個見つかった。このとき、この試料の中にはいくつのプラント・オパールが存在したと推定されるか。a,b,cを用いて表しなさい。 -
課題と対策
応用問題のあり方を理解して正確な読みを心がける
基本は教科の問題なので、特別な難問対策ではなく、読解や計算をていねいに正確に行うことが、小田原高校特色検査対策の基本です。また、説明記述問題に解答する際の手際よさも重要です。設問をよく読み、ポイントに目印をつけ、かんたんなメモでまとめ、手早く書く……このような一連の動作を練習しましょう。
なお、情報量が多い分、ある種の「見極め」も重要です。例えば英文読解ですが、実質的に対話文を読まないと解答できないのは1問だけです。設問そのものを速やかに読み、出題の狙いと解答に必要な情報をつかむと、読むべき箇所とパスできる箇所の区別がつきやすくなり、時間をかけずに得点を高められます。今後の特色検査でもこの傾向が続くかどうかは不明ですが、スピード重視は変わっていませんので、設問の狙いの速やかな把握はたいへん重要です。
最後に、小田原高校の特色検査から読み取れるメッセージです。
身の回りのことや社会のできごとに関心をもつこと、それも、単に情報を受け取るのではなく、「なぜそうなる?」「どういう仕組みになっている?」「解決法は?」など、学ぶことと関連付けて考える習慣をつけましょう。それが「生きた学習」というものです。
以上で2017年度神奈川県特色検査の「高校別分析と対策」を終わります。
ぜひ来年以降の合格に向けて進んでいきましょう。
尚、公立高校の募集定員や入試日程、5教科の共通問題の傾向などの最新情報は『神奈川県高校受験情報』ページもぜひご参照ください。